オステンション。
オステンション(ostension)とは、既にある言い伝えを裏づけるために作られた偽の証拠が、その言い伝えの受け取られ方を変えてしまう現象を指す民俗学の言葉です。
ややこしいのは、証拠が偽物だと分かったあとも効果が残る点にあります。写真が合成だと判明しても、それを一度見た人の頭のなかでは、その伝説の姿かたちが更新されています。証拠は取り下げられ、伝説だけが伸びる。UFOの写真、ネス湖の怪物の写真、心霊写真は、おおむねこの枠で説明されます。
騙すつもりで作られるとは限らない
もうひとつの特徴が、作り手の動機です。偽物を作る理由は「人を騙したい」だけではなく、本人が信じているから証拠を作るという場合があります。1917年から1920年にかけて英国ヨークシャーのコティングリーで撮影された妖精の写真がその例に挙げられます。撮った少女の一人は生涯にわたり、妖精は本当に見たのであって、写真はその記念に作ったものだと語り続けました。この写真をシャーロック・ホームズの作者が本物と判定したことも、あわせてよく引かれます。
証拠が出そろっても、噂は畳まれない
1991年、英国で畑の円を作っていた二人組が名乗り出て、道具まで明かしましたが、円の報告はその後も続いています。ネス湖の「外科医の写真」も同様で、作り物だと明かされたあとに、その写真のほうが怪物の姿として定着しました。噂の中身の真偽を決めるより、誰がいつ何を持ち出したかを追うほうが、確かめられる範囲は広くなります。
補足:本項の説明は、Smithsonian Magazine 2009年12月15日掲載の解説(Rob Irving・Peter Brookesmith)における用法に依拠した。民俗学のなかでは、伝説を演じる行為そのものを指す用法や、偽の証拠を作る類型を別の名前で呼び分ける整理もあり、本項はその全体を扱っていない。