オクトソープ。
オクトソープ(Octothorpe)とは、記号「#」に付けられた呼び名の一つです。名前が多すぎたので、新しい名前を足した結果生まれました。
1960年代、米国のベル研究所は電話と計算機をつなぐ方法を探しており、その過程でプッシュ式のダイヤル(トーン式)が生まれます。数字10個を縦4段・横3列に並べるといちばん下の段が2つ余り、そこへ * と # が入りました。* は「アスタリスク」ではなく「スター」と呼ぶことに決まります。一方の # は、当時すでにナンバーサイン、パウンド、ハッシュなど複数の呼び名が流通しており、電話で読み上げても相手に通じる保証がありませんでした。そこで紛れのない新しい名前として作られたのが、この語だとされています。
octo は数えられるが、thorpe は数えられない
前半の octo が8を指し、記号の端から出ている線の本数と一致することは争われていません。問題は後半です。語誌研究者マイケル・クィニオンによれば、由来の説は少なくとも5つあります。①18世紀の英国の慈善家ジェームズ・エドワード・オグルソープの姓から(アメリカン・ヘリテージ辞典)。②古ノルド語で村を意味する thorp から、記号を「8つの畑に囲まれた村」に見立てた洒落。③1995年にベル研究所のラルフ・カールセンが残したメモにある、技師ドン・マクファーソンが陸上選手ジム・ソープにちなんで名付けたとする話。④2006年にダグラス・A・カーが書いた、もとは octatherp というジョーク語だったとする話。⑤そもそも octothorn・octalthorp・octothorp・octatherp と綴りが揺れているという指摘。
広めようとして、失敗した名前
クィニオンは、これらの話に同時代の裏づけがないと書いています。活字での初出は1974年で、その文面自体が、当時のベル電話システムの中でさえこの語が広く知られていなかったことを示しています。国際規格の文書に言及されたことで半ば公式の地位は得たものの、日常の呼び名としては定着しませんでした。作った当人たちも普段は使わなかったと伝えられています。なお1989年には、国際標準化機関の一つが#の公式名を「スクエア」と定めており、英国のBTは今もその語で案内しています。名前を一つに絞る試みは、少なくとも二度行われたことになります。
補足:記号「#」自体の形の由来は、ラテン語 libra pondo(重さのポンド)の略号 lb に横線を渡した ℔ が崩れたものとする説が有力だが、その過程を直接示す資料は乏しいとする異論もある。音楽のシャープ「♯」は別の文字で、Unicode では # が U+0023 NUMBER SIGN、♯ が U+266F MUSIC SHARP SIGN と区別されている。日本語の「井桁(いげた)」は井戸のまわりに組む枠の形に由来する呼び名。