調和級数。
調和級数とは、1+2分の1+3分の1+4分の1+……と、整数の逆数を順に足していく足し算のことです。足す数はどんどん小さくなるのに、合計は止まらずに大きくなり続けます。
直感に反するのはここで、項が0へ近づいていくなら合計もどこかで頭打ちになりそうに思えます。ところが実際は、いくらでも大きくできる。この性質を発散といいます。14世紀の哲学者ニコル・オレームが示したとされる証明は、束ねて比べるだけの単純なものです。3分の1と4分の1を足すと2分の1以上、5分の1から8分の1までの4つを足すとやはり2分の1以上、次の8つも2分の1以上。2分の1を無限個足していく形に化けるので、上限は無い、という筋道になります。
発散する。でも、あきれるほど遅い
もうひとつの顔が、伸び方の遅さです。最初のn項までの合計は、nの自然対数に0.5772(オイラー=マスケローニ定数)を足したあたりへ落ち着きます。対数なので、合計を1増やすには項数をおよそ2.72倍にしなければならない。合計が10を超えるのは12,367項め、20を超えるのは2億7,240万項めあたりです。「無限に大きくなる」と「実用の範囲ではほとんど伸びない」が、同じ一つの式に同居しています。
この二面性が目に見える形で出てくるのが、積み木やコインをテーブルの端からずらして重ねる遊びです。1段に1枚ずつ積んだときにはみ出せる長さは、積み木の長さを1とすると、ちょうどこの合計の半分になります。4枚で24分の25、つまり1枚ぶんを超える。31枚で2枚ぶん、227枚で3枚ぶん。理屈のうえでは何メートルでも出せるのに、10cmの積み木で1メートル出すには2億枚以上要る、という話になります。
補足:名前の「調和」は音楽に由来する。弦の長さを2分の1、3分の1、4分の1にすると倍音の関係になることから、この形の数列が調和数列と呼ばれ、その和が調和級数と呼ばれるようになった。なお、逆数の分母を2乗した1+4分の1+9分の1+……は発散せず、6分の円周率の2乗(約1.645)に収束する。逆数を足す級数がすべて発散するわけではない。