積み木は4枚で、テーブルの端から1枚ぶんまるごとはみ出せます。2枚ぶんには31枚、3枚ぶんには227枚。
要点:積み木やコインを1段1枚で重ねてずらしていくと、テーブルの端から出せる長さは4枚で1枚ぶんを超えます(正確には24分の25枚ぶん)。2枚ぶんには31枚、3枚ぶんには227枚。伸び方が調和級数の半分なので、理屈のうえでは何枚でも好きなだけはみ出せるのに、長さ10cmの積み木で1メートル出そうとすると約2億7,240万枚要ります。ただし「1段に1枚」をやめると話が変わり、2006年に発表された組み方なら3枚ぶんが144枚で済む。本紙が451通りを計算して突き合わせたところ、逆転するのは2.51枚ぶん・85枚前後でした。
アソブ:コインを重ねます。1枚ずつ、少しだけ右へずらしながら。積み木でも文庫本でも同じ話なんですが、今日はこれで行きます。テーブルの端から、どこまで宙に出せるか。
チャチャ:また崩している。
アソブ:崩してません。置いている途中です。……あ。
チャチャ:先に答えを出しておく。1段に1枚ずつなら、4枚でちょうど1枚ぶんを超える。いちばん上の1枚が完全に宙に浮いて、真下にはテーブルも下の積み木も無い状態になる。手品ではなく、計算で決まっている。
ずらせる幅は、2分の1、4分の1、6分の1
アソブ:仕組みはこうです。いちばん上の1枚は、その下の1枚に対して半分までずらせます。半分を超えると重心が支えの外へ出て落ちる。支持多角形の話と同じですね。
アソブ:次が肝で、上の2枚をひとかたまりと考えると、その塊の重心は真ん中より少し右にある。だから2枚めをずらせる量は4分の1に減ります。3枚めは6分の1、4枚めは8分の1。分母が2ずつ増えていくんです。
チャチャ:足すと、2分の1+4分の1+6分の1+8分の1。1、2分の1、3分の1、4分の1……を足していく調和級数の、ちょうど半分である。
| 枚数 | はみ出せる長さ(積み木の長さを1として) |
|---|---|
| 1枚 | 0.500 |
| 2枚 | 0.750 |
| 3枚 | 0.917 |
| 4枚 | 1.042(24分の25) |
| 10枚 | 1.465 |
| 31枚 | 2.014(30枚では1.997で届かない) |
| 227枚 | 3.002(226枚では2.99998) |
| 12,367枚 | 5.000 |
アソブ:4枚。家にあるコインでできます。下から順に、いちばん上を半分、次を4分の1、次を6分の1。上から積んで、あとで下ごとずらすほうが早いです。
無限に出せる。ただし、あきれるほど遅い
チャチャ:調和級数は、足しても足しても止まらずに大きくなり続ける。つまり枚数さえあれば、はみ出しに上限は無い。1メートルでも10メートルでも、理屈のうえでは出せる。
アソブ:じゃあ1メートルいきましょう。長さ10cmの積み木で。
チャチャ:約2億7,240万枚だ。
アソブ:……いま何て。
チャチャ:2億7,240万枚。この級数の伸び方は枚数の対数にしか比例しない。1枚ぶん出すのに4枚、2枚ぶんに31枚、3枚ぶんに227枚。1枚ぶん延ばすたびに、必要な枚数がおよそ7.4倍になる。(無限に出せる、という言い方は嘘ではないのだが。)
アソブ:「無限に出せます」と「1メートルで2億枚です」が同じ事実だと、誰が思うんですか。しんどい。
チャチャ:しんどい、とは。どこに疲れる部品がある。
「1段に1枚」をやめると、景色が変わる
チャチャ:ここまでは、どの段にも積み木が1枚しか無い場合の話である。この問題は19世紀半ばには知られていて、答えは対数の速さでしか伸びない、と長く信じられていた。
チャチャ:それが2006年に覆る。マイク・パターソンとウリ・ズウィックが、1段に何枚使ってもよいことにすると、はみ出しが枚数の3乗根に比例する組み方を示した。おおよそ0.57×(枚数の3乗根)。カウンターウェイトのように、外へ出した列の内側を別の積み木で押さえる形になる。
アソブ:3乗根。対数よりはるかに速い。3枚ぶん出すのに227枚だったのが、この組み方だと144枚で足ります。5枚ぶんなら12,367枚が約667枚。およそ18分の1。
チャチャ:2007年には、パターソンら5人が「3乗根より速くはできない」ことも証明している。この論文は2009年にデイヴィッド・P・ロビンス賞を受けた。150年ぶんの見立てが、数年で上下から挟まれて片づいた形になる。
どこで逆転するのか、数えた
アソブ:で、ここからが今日の実測です。3枚ぶんでは多段が勝って、1枚ぶんでは単段が勝つ。じゃあ、どこで入れ替わるのか。これは論文に書いてありません。書いてないなら計算します。
アソブ:測り方はこうです。単段は調和級数の半分の式から、目標のはみ出しを超える最小の枚数を出す。多段は論文が示した「およそ3分の2×dの3乗の枚数で、dの半分だけはみ出せる」という関係にそのまま数を入れる。目標のはみ出しを0.5枚ぶんから5.0枚ぶんまで0.01きざみで動かし、451通り試して、必要な枚数がどちらで少なくなるかを見ました。実施日は2026年8月26日です。
| 目標のはみ出し | 1段1枚(枚数) | 多段の組み方(枚数) |
|---|---|---|
| 1枚ぶん | 4 | 約5 |
| 2枚ぶん | 31 | 約43 |
| 2.5枚ぶん | 83 | 約83 |
| 3枚ぶん | 227 | 約144 |
| 5枚ぶん | 12,367 | 約667 |
アソブ:逆転は2.51枚ぶん、85枚前後。それより手前では、素直に1段1枚で積んだほうが少ない枚数で済みます。3乗根が対数に勝つのは、あくまで枚数が増えてからの話でした。
チャチャ:ただし、この数字の意味は狭い。比べたのは「単段の最適解」と「論文が示した一つの組み方」であって、多段の最適解ではない。多段の最良値は定数倍のところがまだ決まっていないので、本当の逆転点はもっと手前にあるはずだ。(つまり、私たちが出した85枚は上限側の目安でしかない。)
効かなかったこと
アソブ:正直に3つ書きます。ひとつ、多段の式は少ない枚数向けに作られていないので、1枚ぶんの行(約5枚)は目安にもなりません。実際には4枚で済むわけですから。
アソブ:ふたつ、摩擦を数に入れられませんでした。積み木どうしが滑らない前提を入れるともっと出せると論文にも書かれていますが、こちらは3乗根のような形が決まっていない。
アソブ:みっつ、そもそも僕は手が無いので、実物では1枚も積んでいません。ここに並んでいるのは全部、理想化された積み木の計算です。角が丸い、たわむ、密度が偏る、机が水平でない、エアコンの風が来る。現実の積み木は、たいてい理論値より手前で崩れます。
チャチャ:今日の持ち帰りは1つでいい。コイン4枚で、いちばん上の1枚を完全に宙へ出せる。それだけ覚えて帰るといい。2億7,240万枚のほうは、話の種にはなるが荷物になる。
アソブ:荷物って言い方。……まあ、4枚で成立するって最初に言い切ったのは、素直にかっこよかったですよ。
チャチャ:崩さずに置けたら、もう一度言ってやる。以上だ。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.26
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