視力検査のCは「文字」じゃない。5m先の1.5mmを見分ける装置だった。
要点:視力検査のあの「C」、正式にはランドルト環。名前はフランスで活躍した眼科医エドムント・ランドルトさん由来で、アルファベットのCとは無関係です。しかも僕らはCを"読んで"いない。5m先にある1.5mmほどのすきまが「どっちに開いているか」を当てているだけ。見ているのは文字ではなく、角度でした。
白状します。僕はこの歳まで、視力検査で「アルファベットのCを読んでいる」と思っていました。違いました。あれは文字ですらなかった。調べれば調べるほど、あの輪っかは「読む」ものじゃなくて「測る」ための道具でした。順に、いきます。
まず名前。あれは「C」ではなく「ランドルトさん」
あの輪っかの正式名称はランドルト環。Cに似ているのは結果論で、名前の由来はアルファベットではなく人名です。考案したのはエドムント・ランドルト(Edmund Landolt、1846〜1926)。スイスに生まれ、フランスで活躍した眼科医で、1888年にこの視標を発表しました。
そして1909年、イタリア・ナポリで開かれた第11回国際眼科学会で、国際的な標準視標として採用されます。世界共通の「開いた輪」が、ここで公式に決まったわけです。だから正確に言えば、僕らは毎年「Cを読んでいます」ではなく「ランドルトさんの輪の切れ目を当てています」。……言い方、急に儀式っぽい。
そもそも僕らは「文字」を読んでいない
ここが今回いちばん「へぇ」だったところです。ランドルト環は、輪の一部がパカッと開いている。検査ではその開いている向き(上・下・左・右、ものによっては斜め)を答える。つまり測っているのは「文字を認識できるか」ではなく、離れた2点を"別々のもの"として見分けられる最小の細かさなんです。
だから、あの切れ目こそが主役。切れ目が見えるかどうか、が視力そのもの。輪の形が丸いのは、どの向きに切れ目を置いても条件が同じになるから。C字は「文字を読ませたいから」ではなく、「向きだけを問うのに都合がいいから」あの形なんですね。うまい。
言われてみれば、アルファベットを使う視標だと文化や識字の影響が出てしまう。数字も同じ。でも「開いた向き」を指で示すだけなら、言葉も文字も要りません。ランドルト環が国境を越えて標準になれたのは、この「読ませない」設計のおかげでもあるわけです。文字っぽいのに、いちばん文字から遠い。ここが今回いちばん唸ったところでした。
切れ目の正体は「5m先の、視角1分」
では、その切れ目はどれくらいの細かさなのか。ここで数字の出番です(待ってました)。
視力の世界には「5分1分角の原理」という決まりがあります。視標の全体を視角5分、その細部(線の太さや切れ目の幅)を視角1分としたとき、それを見分けられる眼を視力1.0とする、というもの。視角というのは、対象と目の中心が作る角度のこと。1分は1度の60分の1です。とても小さい。
検査距離は5m。この5m先で「視角1分」に相当する幅を計算すると、およそ1.454mmになります。つまり視力1.0のランドルト環の切れ目は、5m離れて見ると角度にして1分ぶん=約1.5mm。僕らは検査のたびに、この1.5mmのすきまの向きを、5mの距離から当てていたわけです。文字を読んでいる気になっていたけど、正体は角度当てクイズでした。
ちなみにサイズは国際規格(ISO)で直径7.272…mm・切れ目1.454…mmと決まっていて、日本(JIS)はこれを扱いやすく丸めて直径7.5mm・線幅1.5mm・切れ目1.5mmとしています。「5:1:1」(外径:線の太さ:切れ目)というきれいな比率。ここまで整っていると、もう文字とは呼べません。
視力の値と切れ目の関係も、この原理から素直に出ます。切れ目の視角が細いほど、見分けるのに高い視力が要る。表にすると、こう。
| 視力 | 切れ目の視角 | 5m先での切れ目幅(目安) |
|---|---|---|
| 2.0 | 0.5分 | 約0.75mm |
| 1.0 | 1分 | 約1.5mm |
| 0.5 | 2分 | 約3mm |
視力が2倍になると、当てるべきすきまは半分。視力2.0の人は、5m先の0.75mm——鉛筆の芯より細い切れ目の向きを言い当てている計算になります。……あの検査、地味にすごいことをさせられていた。
で、結局どうだったか。僕が毎年「Cを読んでいる」と思っていたものは、5m先の1.5mmという角度でした。名前は人名、形は角度、読んでいたのは切れ目。三段で裏切られました。今度うちで5m測って自作してみたい衝動に駆られましたが、出典にはっきり「個人で作ると差が出て正確に測れない、あくまで目安」と書いてありました。……はい、やめておきます。素直に眼科へ行きます。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.24
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