用語辞典 — ツギノテ。FUNGLOSSARY

ダミーテキスト

ダミーテキストとは、まだ原稿が入っていない段階で、レイアウトや書体の見え方を確かめるために流し込んでおく仮の文字列のことです。プレースホルダーテキストとも呼ばれます。

ふつう文章は読ませるために置きますが、この用途だけは逆です。目的は「読ませないこと」にあります。意味の通る文章を仮置きすると、見る側がつい内容を読んでしまい、字間・行間・段組み・書体の判断が狂う。だから、文字の形と分量だけが伝わって、意味は届かない状態がいちばん都合がいいわけです。

英語圏の標準と、日本語の場合

英語圏で長く使われてきたのが「Lorem ipsum dolor sit amet...」で始まるラテン語風の一段落です。参照元として広く使われている lipsum.com の説明によれば、1966年、レトラセット社の転写シート用に、ロンドンのセント・ブライド印刷図書館の司書ジェームズ・モズリーらが1914年刊のキケロ『善と悪の究極について』(H・ラッカム訳)から一部を取って崩したものとされています。ラテン語のように見えて読み下せないのは、意図してそう作られているためです。

日本語の組版では「あああああ」の繰り返し、「ダミーダミー」、いろは歌、意味をなさない漢字の並びなどが同じ役割を担います。仮名と漢字の混ざり具合で見た目の黒さが変わるので、本番原稿の性質に近い混ぜ方を選ぶのが実務上のコツとされます。

そのまま印刷されてしまう事故

仮のものである以上、差し替え忘れという事故がついてまわります。パッケージや看板、企業サイトに Lorem ipsum が残ったまま公開される例は珍しくなく、ネット上でしばしば話題になります。読ませないための文字が、いちばん読まれてしまう瞬間です。

補足:よく使われる標準版は69語で、うち41語はキケロの原文と綴りが完全に一致し、残る28語も原文の語の語尾を削る・文字を足す・2語をつなぐという操作で作られている(ツギノテ。FUN編集部による集計)。冒頭の Lorem は単語ではなく、原文 dolorem が1914年版の34ページと36ページの改ページで分断された後半にあたる。また1987年に Aldus PageMaker へ収録された際の打ち間違いがそのまま残り、consectetuer(e が1つ多い)・nibh・zzril といった綴りが今も流通している。