流行りもの — 2026.09.11 NO.057 / TSUGINOTE FUN

「それ、タイパ悪くない?」と言われた次の瞬間、切り捨てるための言葉のほうを、疑ってみたくなった

古いブラウン管モニターの画像が、矢印をたどって4台のスマートフォンのSNS投稿へ複製され、さらに色あせた新聞の束へと変わっていく。手前には束ねられたカードが収まる引き出し箱が置かれている

要点:「タイパ悪い」の「タイパ(タイムパフォーマンス)」は2022年に三省堂『今年の新語』大賞に選ばれた言葉だが、考案は2015年、マーケティングアナリスト原田曜平氏によるものとされる。2019年にはすでに業界誌に登場しており、2022年の倍速視聴を論じた本がきっかけで一気に広まった。しかもこの言葉、実は商標登録されている(登録第5797284号)。「コスパ」の後に生まれ、「スペパ(スペースパフォーマンス)」という後輩もいる。

「それ、タイパ悪くない?」と言われたことがある。悪気はなさそうだったし、実際そうだったのかもしれない。ただ、この「タイパ」という言葉自体には、意外と手間のかかった来歴がある。

タイパは「タイムパフォーマンス」の略で、時間に対する効果、つまり時間対効果を表す語だ。「コスパ(コストパフォーマンス)」にならって作られた和製英語で、英語圏でふつうに使われる言い方ではない。

言葉自体は、思ったより若くない

ウィキペディア日本語版「タイムパフォーマンス」の項目によれば、この語を考案したのは2015年、マーケティングアナリストの原田曜平氏とされる。当時の若者の実態を見て思いついた造語だという。出典として示されているのはPR TIMES配信の紹介記事で、私はその記事そのものを直接確認できていない。ウィキペディアの記述を孫引きしている点は、正直に断っておく。

大賞になる7年前から、業界誌には出ていた

三省堂「今年の新語2022」の選評は、もう少し具体的な足あとを示している。ビジネス情報誌『ダイヤモンド・チェーンストア』2019年2月15日号が、個人が多忙になり生産性の向上を求める傾向が強まった結果として「コスパよりタイパ重視の時代になった」と指摘している、という。「タイパ」が世間に「新語」として選ばれる3年前には、すでに業界誌の見出しに出ていたことになる。実際に使われた例を見ると、同じ略し方の「タムパ」より「タイパ」のほうが圧倒的に多く、2022年に入って用例が急に増えたそうだ。

火をつけたのは、倍速視聴の本だった

タイパが世間の話題になった直接のきっかけは、動画の「倍速視聴」だ。2022年4月に刊行された稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)は、若い世代が映画やドラマを倍速や10秒飛ばしで見る様子を論じ、〈倍速視聴・10秒飛ばしする人が追求しているのは、時間コスパだ。これは昨今、若者たちの間で「タイパ」あるいは「タムパ」と呼ばれている〉と記した。同じ年の秋、三省堂「辞書を編む人が選ぶ今年の新語2022」の大賞に「タイパ」が選ばれ、この語は一気に一般語になった。

この言葉、実は商標でもある

ここまでは、まあよくある「新語の出世物語」だ。おもしろいのはここから先である。ウィキペディアの同じ項目には、「タイパ」は商標登録されている、と一文だけ書いてある。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の登録番号として第5797284号、出願番号として商願2015-031220が示されている。出願の年が、原田氏による考案の年と重なっているのは、偶然ではなさそうだ。(効率を語るための言葉が、他人には気軽に使わせない権利の対象になっている。)ただし、どの区分の商品・サービスに対して登録されているのか、権利者が誰なのかまでは、今回たどり着けなかった。番号だけを鵜呑みにせず、そこは「確認できていない」と正直に書いておく。

「コスパ」の子で、「スペパ」の先輩

タイパは「コスパ」の後に生まれた語だが、その後にも後輩がいる。「スペパ(スペースパフォーマンス)」だ。空間に対する効果、つまり限られたスペースをどれだけ有効に使えるかを表す語で、住宅や家具を扱う複数の企業のコラムが、コロナ禍のテレワーク普及や住宅の狭小化を背景に広まった言葉として、同じような説明を掲げている。「コスパ→タイパ→スペパ」という並びを見ると、この手の略語は、測る対象を変えながら増え続ける気配がある。次に来るのが何パなのかは、今のところ見当がつかない。

ここまでをつなげると、こうなる。ある言葉が「新語」として脚光を浴びるとき、その言葉自体はたいてい脚光より先に生まれている。大賞や流行語のランキングがしているのは、言葉を発明することではなく、すでに動き始めていた言葉に、遅れて名札を貼ることのようだ。名札が貼られた瞬間だけを見ていると、その言葉が急に生まれたように錯覚する。

分からなかったこと

3つある。1つめ、商標の権利者や指定区分といった詳しい範囲は確認できていない。2つめ、2019年の業界誌の記述が「タイパ」という語そのものの初出かどうかは分からない。それより前に、どこかの社内資料や会話で使われていた可能性は否定できない。3つめ、この語がいつまで「新語」の顔をしていられるかは分からない。2026年のいま検索した範囲では、廃れたと断じている情報は見当たらず、就職活動の場面でも普通に使われ続けているようだ。

持ち帰りは1つだけ。効率を測るための言葉ほど、案外、ゆっくり時間をかけて育っている。

出典:三省堂「今年の新語2022」選評全文(大賞「タイパ」の選出理由、ビジネス情報誌『ダイヤモンド・チェーンストア』2019年2月15日号の指摘、「タムパ」より「タイパ」の用例が圧倒的に多く2022年に急増したという記述、稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』〈光文社新書・2022年4月刊〉からの引用。https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2022/best10/Preferenceall.html)/ウィキペディア日本語版「タイムパフォーマンス」(2015年に原田曜平氏が考案したという記述〈出典はPR TIMES配信記事とされるが、当該記事そのものは今回確認できていない〉、商標登録第5797284号・商願2015-031220の記載。https://ja.wikipedia.org/wiki/タイムパフォーマンス)/セルウェル「コスパ・タイパの次に注目のスぺパとは?」、四国銀行「四銀ルーム」のコラム、コクヨのコラムほか、住宅・家具業界の複数のコラムがスペパ(スペースパフォーマンス)について同様の説明を掲載。本紙が独自に確認したものではなく、複数の企業コラムの記述が一致している範囲でまとめた。商標の権利者・指定区分、および2019年の記述が語の初出であるかどうかは、今回確認できていない。
EDITOR'S NOTE — チャチャ:この記事を書くのに使った時間そのものは、お世辞にもタイパがいいとは言えない。(効率を語る記事ほど、書くのに手間がかかるのは、皮肉としてはできすぎている。)

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.11
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