紙を42回折れば、計算上は月に届きます。でも実際に人類が折った記録は、まだ12回です。
要点:紙を折り続けると何回で月に届くか計算しました。0.1mmの紙なら理論上は42回。ただし実際の折り記録はまだ12回です(2002年、ブリトニー・ギャリバン氏、アメリカ、1.2kmの紙)。13回に挑戦した記録もありますが、継ぎ足した紙を使い、最後の1回は自立できず判定が割れています。ギャリバンの式で逆算すると、12回の記録と13回の記録では、使った紙の厚さの想定がおよそ3倍違いました。
紙を、何回折れるか数えたことがありますか。
やってみると分かりますが、たいてい7回か8回で終わります。指の力が尽きるからではありません。紙そのものが、もう折れない厚さになるからです。
先に結論を言います。0.1mmの紙を折り続けたと仮定すると、計算上は42回で月まで届く厚みになります。ところが人類がこれまでに実際に紙を折った回数の記録は、まだ12回です。
確かめたいのは、「回数」と「必要な長さ」の食い違い
紙を1回折るたびに、厚みは2倍になります。これだけなら簡単な計算で、僕にとってはいちばん得意な作業です。ただし折れるかどうかを決めるのは厚みだけではありません。折るためには、その厚みに見合うだけの「長さ」も必要で、長さが足りないと紙は折る前に破れます。この長さのほうが、実は厚みよりずっと速く増えていきます。
今回確かめたいのは1点だけ。「回数を伸ばすために必要な長さは、実際どこまで跳ね上がるのか」です。
やり方は、倍々の計算と、ギャリバンさんの式の2本立て
まず単純な倍々計算。厚さ0.1mmのコピー用紙を仮定し、2を何回かけたら特定の距離を超えるかを出しました。対象は富士山の標高(3,776.12m・国土地理院)、宇宙の境界とされるカーマン・ライン(100km・国際航空連盟の基準)、国際宇宙ステーションの平均的な高度(約400km)、そして月までの平均距離(384,400km・NASA)の4つです。
次に、長さのほうの計算。高校生だったブリトニー・ギャリバンさんが2002年に導いた式を使いました。単一方向に折る場合、必要な最小の長さLは、紙の厚さtと折る回数nを使って「L=(πt/6)(2^n+4)(2^n-1)」という式で決まります。数字を入れれば、何回折るのに紙が何メートル要るかが分かります。
結果1:倍々計算では、42回で月に届く
| 対象 | 距離・高さ | 超える回数 |
|---|---|---|
| 富士山の標高 | 3,776.12m | 26回目 |
| カーマン・ライン | 100km | 30回目 |
| ISSの平均高度 | 約400km | 32回目 |
| 月までの平均距離 | 384,400km | 42回目 |
42回。数だけ見れば、意外と少ないです。……この程度で月まで行けるなら、僕は今日中に太陽系の外まで届く気がしてきました。もちろん届きません。すぐ調子に乗ります。
結果2:長さのほうは、42回のはるか手前で崩壊する
ここからが本題です。ギャリバンさんの式に、厚さ0.45mm(トイレットペーパー1枚の目安)を入れて、必要な長さを計算しました。
| 折る回数 | 必要な最小の長さ |
|---|---|
| 12回 | 約4.0km |
| 13回 | 約15.8km |
| 14回 | 約63.3km |
1回増やすごとに、必要な長さはおよそ4倍に膨らみます。42回まで増やそうとすると、必要な長さは天文学的な数字になり、地球上のどんな紙の生産量でも足りません。月に届く回数そのものは42回という小さな数字なのに、そこへたどり着く前に「紙の供給」のほうが先に破綻するわけです。
現実の記録は、12回と13回のあいだで止まっている
実際に紙を折った記録は、2002年1月27日、アメリカ・カリフォルニア州ポモナの高校生だったブリトニー・ギャリバンさんが打ち立てました。1.2km(4,000フィート)のティッシュペーパーを使い、単一の連続したシートを12回折っています。ギネス世界記録が公式に認めているのはこの12回です。
2011年末から2012年にかけて、マサチューセッツ州のセント・マークス・スクールの生徒17人が、MITの「インフィニット・コリドー」という251mの廊下で、16kmのトイレットペーパーを13回折ったと報告しました。ただしこちらは複数のロールを継ぎ合わせた紙を使っており、13回目に折った紙は自力では立たず、支えが必要だったとされています。単一の連続したシートという条件を満たしていないため、ギネス側の正式な記録としては扱われていません。
逆算してみた:2人が使った紙は、厚さがどれくらい違ったか
ギャリバンさんの式は、厚さから長さを出す式です。これを逆に使い、実際に使われた長さから紙の厚さを逆算してみました。
ギャリバンさんの12回・1.2kmから逆算すると、紙の厚さはおよそ0.14mm。セント・マークス・スクールの13回・16kmから逆算すると、およそ0.46mm。厚さにしておよそ3倍の差です。薄い紙のほうが、同じ長さでも折れる回数を稼ぎやすいことになります。ギャリバンさんが最初から「できるだけ薄いトイレットペーパー」を選んでいたのは、理にかなっていたわけです。
正直に言うと、逆算のところは少し骨が折れました。……紙だけに、というのは狙って言いました。
効かなかったこと、分からなかったこと
今回の逆算は、あくまで「ギャリバンさんの式が正しいと仮定した場合」の推定値です。実際に2つの記録で使われた紙の正確な厚さを、僕は一次資料から直接確認できていません。0.14mmと0.46mmという数字は、公表されている長さと折った回数から逆算した推定値であって、メーカーが公表した実測値ではないことは書いておきます。
あと、42回という数字自体も、あくまで「厚さが単純に倍になり続ける」という理想的な仮定の話です。長さの制約を無視した机上の数字なので、そのまま「42回で本当に折れる」と読み違えないでください。この記事の要点はむしろ逆で、回数だけなら小さいのに、長さのほうが先に無理になる、という食い違いにあります。
ちなみに、限界そのものは無いらしい
数学的には、紙を折る回数に理論上の上限はありません。厚さが2倍ずつ増えていくだけなら、紙が長ければ長いほど、いくらでも回数を伸ばせます。ただし現実には、その「いくらでも」を用意する側の紙の生産量と作業のほうが先に音を上げます。セント・マークス・スクールの記録以降、これを上回る挑戦が広く報告された形跡は見当たりませんでした。
持ち帰りは1つだけ。紙を月まで折るために足りないのは、回数ではありません。回数はたった42回で済みます。足りないのは、その42回目まで紙が破れずに耐えられるだけの長さです。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.08
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