40枚の絵を見せたら、同じ間違え方をしたのは7枚だけだった。残り33枚と分けたのは、見た回数ではない。
要点:ピカチュウの尻尾の先は、黒くありません。モノポリーのおじさんは片眼鏡をかけていません。この種の思い違いは大勢で共有されることがあり、2022年に心理学の査読誌が実験しています。有名なロゴやキャラクター40枚を、正しい版と作りかえた2版の3枚組で見せた結果、条件を満たしたのは7枚だけでした。研究者は角度を変えて4回聞きましたが、その7枚と残り33枚を分ける理由は出ていません。見た回数の差でもありませんでした。
ピカチュウの尻尾を思い浮かべてください。付け根から先に向かって、稲妻の形。その先端は、何色でしたか。
黒だと答えた人は、公式の絵を確認してみてください。先端は黒くありません。黒いのは耳の先です。
この手の話は、ふつう「記憶なんていい加減ですね」で終わります。今日はそこで止めません。いい加減であることより、いい加減さの向きが揃っていることのほうが妙だからです。人はそれぞれ勝手に間違えるはずなのに、なぜか同じ方向に、同じ部品を足して間違える。その気味の悪さを実験にした人たちがいます。
3枚並べて、正しいものを選ばせる
2022年、シカゴ大学のディーパスリ・プラサド氏とウィルマ・ベインブリッジ氏が、心理学の査読誌 Psychological Science にこの現象の実験を発表しました。題は「視覚的マンデラ効果は、人々のあいだで共有され、かつ特定の内容を持つ虚偽記憶の証拠である」。長い題ですが、要点は「共有され」と「特定の内容を持つ」の2語に入っています。
実験1の参加者は100人。よく知られたロゴやキャラクター40枚について、1枚ずつ3つのバージョンを見せます。1つは本物、あとの2つは細部を作りかえた偽物です。モノポリーのおじさんなら、片眼鏡を足した版と、丸眼鏡を足した版が用意されました。参加者の仕事は、正しいものを1枚選ぶことだけです。
ただ間違いが多い絵を探しているのではありません。この研究が探していたのは、間違え方まで揃っている絵です。多くの人が本物を外し、しかも外した先が同じ1枚に集中している。その条件を満たしたのは、40枚のうち7枚でした。
| 対象 | 足されてしまう部品 |
|---|---|
| C-3PO(スター・ウォーズ) | 全身が金色。実際は片脚が銀色 |
| フルーツ・オブ・ザ・ルーム(ロゴ) | 果物の背後の豊穣の角(コルヌコピア) |
| おさるのジョージ | 尻尾 |
| モノポリーのおじさん | 片眼鏡 |
| ピカチュウ | 尻尾の先の黒 |
| フォルクスワーゲン(ロゴ) | V と W をつなぐ線 |
| ウォーリー(ウォーリーをさがせ!) | 持ち物や服装の細部 |
残りの33枚では、間違いは散らばりました。つまり「有名だから間違える」でも「細かいから間違える」でもない。40枚とも有名で、40枚とも細部を作りかえてあります。(同じ条件で、7枚だけが揃ってしまったわけです。)
見ていないから間違える、では説明がつかなかった
いちばん素直な仮説は、接触量の差です。よく見ている絵ほど正しく覚え、ろくに見ていない絵ほど怪しくなる。研究チームはこれを潰しにいきました。
実験2(60人)では、視覚的な注意の向き方に差がないかを調べています。結果として、7枚とそれ以外を分けるような注意や見え方の違いは見つかっていません。実験3では、人が日常で目にする画像そのものを検討しました。ネット上に出回っている画像が偏っているなら、偏った現物を見て覚えたことになりますが、ここでも明確な差は出ていません。
論文の書き方は慎重です。不正確な画像に触れた経験が一因になっている可能性は残しつつ、それだけでは説明しきれないとしています。実際に見たことがないはずの絵を、人は思い出しているわけです。
間違いの原因を「間違った現物を見たから」に求めると、現物が見つからない。この研究がいちばん静かに困っているのは、その一点です。
選ばせるのをやめて、描かせてみる
選択式には弱点があります。3枚並べれば、迷った末に選び直した可能性が消えません。そこで実験4(50人)では、参加者に絵を描かせました。選ぶのではなく、記憶から出力させたわけです。
すると、片眼鏡も、尻尾も、豊穣の角も、描かれました。誰にも見せられていない部品が、自分の手から出てくる。報道によれば、直前に正しい絵を見せられた群でも描いた絵のおよそ5分の1に、記憶だけで描いた群ではおよそ半分に、この種の誤りが現れています。
(正しい絵を見せた直後でも5分の1が間違えるというのは、なかなかの数字だと思います。)
名前のほうは、2009年の会場でついた
ここまでマンデラ効果という語を使ってきましたが、これは学術用語として生まれた言葉ではありません。
2009年、アトランタで開かれたポップカルチャーの大型イベント、ドラゴンコンの会場でのことです。超常現象を扱う書き手のフィオナ・ブルーム氏が、ネルソン・マンデラは1980年代に獄中で死んだ、という自分の記憶を話したところ、周囲の何人もが同じ記憶を持っていた。ブルーム氏はこれに「マンデラ効果」と名前をつけ、2010年に専用サイトを立ち上げて同種の事例を集めはじめました。
ネルソン・マンデラ氏が亡くなったのは2013年12月5日です。獄中ではありません。1990年に釈放され、1994年に南アフリカの大統領に就いています。
語の出発点が超常現象の側だったせいで、この現象は長らく「並行世界が書き換わった証拠」として語られてきました。私はその当否を裁定しません。ただ、名前が先にでき、実験は13年遅れて来た、という順番だけは押さえておく価値があります。名前がつくと現象は増えます。増えたものを数えるのは、いつも後発の仕事です。
豊穣の角は、探しても出てこない
7枚のうち、日本ではあまり知られていないものを1つだけ開けておきます。フルーツ・オブ・ザ・ルームという米国の衣料ブランドのロゴです。果物が盛られた絵で、その背後に角笛の形をした籠、豊穣の角があったと記憶している人が大勢います。
同社は公式のよくある質問で、170年以上の歴史のなかで豊穣の角を含むロゴを使ったことも、出願したことも、登録したこともないと述べています。混乱の出どころとしてよく挙がるのが、米国特許商標庁のデータベースの検索コードです。1973年の出願書類に「05.09.14 果物の籠/果物の容器/豊穣の角」という記述が残っているのですが、これは審査官が画像を検索しやすくするために割り当てた分類の説明であって、ロゴの中身の説明ではありません。同社は絵柄について登録を受けたのであって、この説明文について受けたわけではない、という整理になります。
ファクトチェック機関のスノープスも、豊穣の角入りのロゴが存在した証拠は確認できないとしています。(見た記憶のほうは、こんなに具体的なのですが。)
2024年に、389人でもう一度やった
心理学の実験は、他人が同じ手順でやり直して同じ結果が出るかどうかで値打ちが決まります。この研究には追試があります。
クリアラー・シンキングによる追試プロジェクトの報告書8号が、原論文の実験1を389人でやり直しました。原著の100人に対して約4倍です。結果は再現。追試では条件を満たした画像が8枚になりましたが、現象そのものは崩れませんでした。
つまり「7枚」という数字は40枚という出題範囲と判定基準に依存する数字であって、人数を増やせば動きます。動かなかったのは、特定の絵で、間違え方が揃うという事実です。
確かめられていないこと
整理しておきます。確かめられているのは、大勢が特定の画像について同じ内容の誤りを持つこと、それが選択でも描画でも現れること、389人でも再現したこと。
確かめられていないのは、なぜその画像なのか、です。無関係なものに意味のあるつながりを見てしまうアポフェニアのように、既に名前のついた癖で片づけたくなりますが、それでは7枚と33枚の線が引けません。よく耳にする説明はいくつかあります。ピカチュウは耳の先の黒が尻尾へ移ったのだ。モノポリーのおじさんは、片眼鏡をかけた別の食品キャラクターと混ざったのだ。どれももっともらしく、どれも実験で決着していません。研究チーム自身、この現象を引き起こす原因は分かっていないという立場です。
そして、ここが少し愉快なところですが、この記事を読んだあなたはもう、ピカチュウの尻尾の先が黒くないことを知ってしまいました。それでも来週あたり、頭の中の絵は先端を黒く塗り直しているはずです。知識は上書きが速く、絵は遅い。7枚のリストは、その速度差を並べた一覧でもあります。
以上です。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.09
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。