レトロニム。
レトロニム(Retronym)とは、後から現れたものと区別する必要が出たために、元からあったほうへ新しく付けられる呼び名のことです。
ラテン語の retro-(後ろへ)と、ギリシャ語由来の -onym(名前)を合わせた造語です。電話が線につながっているだけだったころ、それは「電話」でした。携帯電話が広まって初めて「固定電話」という言い方が要るようになります。同じ形で、エレキギターが現れたあとに「アコースティックギター」、人工芝のあとに「天然芝」、デジタル時計のあとに「アナログ時計」が生まれました。米メリアム・ウェブスターの辞書は、アナログ時計・フィルムカメラ・かたつむり便(snail mail)を例に挙げています。
初出は、ギターの話だった
活字での最も古い用例は1980年7月27日、ニューヨーク・タイムズ・マガジンに載ったウィリアム・サファイアのコラム「On Language」です。造語したのは言語学者ではなく、米国の公共ラジオNPRの社長だったフランク・マンキーウィッツ。この種の言葉を集めていた人物として同コラムに登場し、「時代に取り残されないため、そして新しい語を退けるために、形容詞を背負うことになった名詞」と定義しています。マンキーウィッツ本人が最初に気づいた例は「natural grass(天然芝)」で、野球場に人工芝が入りはじめた時期だったと後年語っています。
名前が長くなるのは、先にいた側である
新しいものは短い名前を持って現れ、元からあったほうが修飾語を背負います。しかも、その修飾語を付けるのは発明者ではなく、区別する必要が出た使う側です。したがってレトロニムは、そのものの性質ではなく既定が入れ替わった時期を示す記録として読めます。「対面」「紙の本」「有人レジ」も同じ形です。なおバックロニムは、既にある語へ後から展開形をこじつける別の現象で、こちらは古い側への改名ではありません。
補足:「レトロニム」自身は古い側へ付けられた名前ではないため、レトロニムには当たらない。1980年の初出およびマンキーウィッツの定義・証言は、Merriam-Webster の語源記述と Language Log(Ben Zimmer, 2014年10月24日)が引用する当該コラムに基づく。日本語の「固定電話」「白黒テレビ」がいつから使われたかは確認できていない。