リミナリティ。
リミナリティ(Liminality)とは、もう前の身分ではなく、まだ次の身分でもない、宙づりの時間を指す人類学の言葉です。
語源はラテン語の limen、つまり敷居です。部屋の内でも外でもない、またいでいる途中の場所。フランスで活動した民族学者アルノルト・ファン・ヘネップ(1873〜1957)が、1909年の『通過儀礼(Les rites de passage)』で、成人・結婚・葬送といった身分の移動にともなう儀礼を、分離・過渡・再統合の3段に整理しました。この真ん中の段が過渡=リミナルです。
身分の話であって、場所の話ではなかった
高校を出た人は、もう高校生ではなく、まだ大学生でもありません。この「まだ何者でもない」時間がリミナリティにあたります。ファン・ヘネップの整理は長いあいだ注目されず、1960年代にヴィクター・ターナーが取り上げたことで人類学の外へ広がりました。英訳版が出たのは1960年です。
2019年以降、写真ジャンルの名前になった
2019年5月、匿名掲示板に投稿された一枚の廊下の写真と短い作り話をきっかけに、無人の空間を写した画像が「リミナルスペース」と呼ばれるようになります。もとは人の状態を指す語だったものが、場所そのものを指す語として使われるようになった形です。マンデラ効果やアポフェニアと同じく、ネットの語彙として広まる過程で、元の学術的な定義とはずれた使われ方が定着しました。
補足:ファン・ヘネップの生没年と『通過儀礼』の刊行年(1909年)はブリタニカ百科事典、英訳版の刊行年(1960年)はシカゴ大学出版局の紹介ページに拠る。英語版Wikipedia「Liminal space (aesthetic)」は同書を1884年刊としているが、これは生年1873年と整合しない(2026年8月17日閲覧時点の記述)。日本語で「リミナリティ」の訳語がいつから使われたかは確認できていない。