分類・図鑑 — 2026.08.02 NO.029 / TSUGINOTE FUN

カメレオンが色を変える理由は4つ。周りに合わせるのは、そのうちの1つでしかない

市松模様の壁を歩くカメレオン。前半身は白黒の市松に溶け込み、後ろから尾にかけて虹色へ変わっていくイラスト

要点:カメレオン=周りに合わせて隠れる生きもの、というイメージ。論文にあたって、報告されている体色変化の役割を全部拾って分類しました。出てきたのは4つで、内訳は目立つためが3つ、隠れるためが1つ。しかも変色能力そのものの進化を押したのは隠れる側ではなかった、という研究があります。おまけに色を作っているのは絵の具ではなく、皮膚に並んだ結晶のすき間でした。最後に4つへ順位を付けようとして、失敗しています。

まず自分の思い込みを白状します。カメレオンは、置かれた場所に合わせて色を変える生きものだと思っていました。市松模様の壁に乗せたら市松になる、みたいな。

これ、漫画の絵です。実際に測られているのは背景のとの一致であって、模様の再現ではありません。柄をコピーする能力を報告した研究は見つけられませんでした。

で、そこまでは想定内だったんです。問題はその先でした。「じゃあ何のために変えているのか」を調べるつもりで論文を開いたら、理由が1つも2つも出てこない。数えることにしました。

そのまえに、仕組みが想像と違いました

体色変化と聞くと、皮膚の中で色素が広がったり縮んだりする図を思い浮かべます。カロテノイドでピンクになるフラミンゴのような、色素の話。カメレオンにも色素細胞はあるのですが、あの派手な切り替わりの主役は別でした。

2015年にジュネーブ大学のチームが Nature Communications に出した論文が、パンサーカメレオンの皮膚を顕微鏡と分光で追いかけています。皮膚の浅いところに、グアニンのナノ結晶が格子状に並んだ細胞層がある。この細胞を虹色素胞といいます。

結晶そのものに色はありません。並び方のすき間の広さで、跳ね返る光の波長が決まる。すき間が狭ければ青、広がれば黄や赤の側へ寄る。シャボン玉やタマムシと同じ、構造で出す色です。

カメレオンは、この格子の間隔を能動的に変えている。落ち着いたオスは狭い格子で青緑を返し、興奮すると格子が広がって黄や赤に転じる。(Teyssier et al., Nature Communications, 2015)

絵の具を混ぜているのではなく、鏡の目盛りを動かしていた。僕はここで一回、調べる手を止めました。仕組みがこうなら、「隠れるため」という説明はむしろ後付けに見えてきます。


報告されている役割を、4つに分けました

論文で役割として扱われているものを拾い、重複をまとめたら4つになりました。並べます。

#役割向き主な根拠
1ケンカと求愛の合図目立つStuart-Fox & Moussalli 2008(PLoS Biology)
2「今は無理です」の返事目立つKelso & Verrell 2002(Ethology)
3体温の調節目立つ/隠れるの外Teyssier et al. 2015(Nat. Commun.)
4カモフラージュ隠れるStuart-Fox et al. 2008(Biology Letters)

4つのうち、隠れるためは1つ。しかも一番よく知られているやつが、いちばん少数派の欄に入りました。

1. ケンカと求愛。ここが本命でした

南アフリカのコビトカメレオン(Bradypodion)21系統を比べた研究があります。やり方が身も蓋もなくて好きです。枝の上にオスを2匹、向かい合わせに座らせる。それで色がどこまで動くかを測る。

結果、変色の幅が大きい系統ほど、社会的なディスプレイが派手でした。つまり変色能力の進化を押していたのは「見つからないこと」ではなく、「見せつけること」だった、という結論です。負けたオスや、メスに強く拒まれたオスは、降参用の別の色に切り替わることも記録されています。

勝ったら派手に、負けたら地味に。表情が全身に出るタイプです。ポーカーには向いていません。

2. 「今は無理です」を体で言う

2002年のエボシカメレオンの研究では、メスが繁殖の段階に応じて2つの異なる体色と行動の組み合わせを見せることが報告されています。受容期と、非受容期。オスの側もそれを読んでいて、受容期のメスにはよく求愛し、非受容期には引く。

断り文句が色で実装されている。しかも相手にちゃんと通じている。ちなみに飼育の現場では、抱卵中のエボシカメレオンのメスに出る斑点が同じサインとして知られていますが、これは論文の記述というより飼育者の観察の側の話なので、分けて置いておきます。

3. 体温。ここで2階建ての意味が出ます

さきほどの2015年の論文には、続きがあります。虹色素胞の層が2階建てになっていた、という発見です。

浅い層が、色を切り替える担当。その下にもう一層あって、こちらは結晶が大きく、近赤外線をよく反射する。近赤外線は日差しの熱を運ぶ帯域です。論文では、この深い層が日射に対する受動的な熱の防御になっている可能性を指摘しています。

カメレオンは変温動物なので、体温は日光との付き合い方で決まります。暗い色にすれば熱を吸い、明るい色にすれば返す。上の階で会話をして、下の階で暑さをしのぐ。同じ素材で二役です。

この3番だけは「目立つ/隠れる」のどちらでもありません。分類していて一番困った行でした。表の「向き」の欄がひとつだけ長いのは、僕が最後まで決めきれなかったからです。

4. カモフラージュ。ちゃんとやっています

ここまで書くと隠れる能力を否定しているようですが、そうではありません。むしろ、いちばん芸が細かいのがこの4番でした。

同じ2008年、同じグループが Biology Letters に出した実験です。コビトカメレオンの前に、2種類の捕食者を置きました。剥製のモズと、博物館の模型職人に作らせたブームスラング(樹上性のヘビ)の模型。

反応が、相手によって違いました。鳥に対しては、しがみついている枝の色によく合わせる。ヘビに対しては淡くなる。ここで研究チームは、捕食者の視覚モデルを通して「相手の目から見た見え方」を計算しています。ヘビは色の識別が鳥より粗い。だから淡くしたほうが、ヘビの目には結果的によく紛れる。

相手の視力に合わせて、隠れ方の方式を切り替えている。(Stuart-Fox, Moussalli & Whiting, Biology Letters, 2008)

背景に溶けるのではなく、相手にとって見えにくい状態を選ぶ。市松模様をコピーするより、こっちのほうがよほど手が込んでいます。僕が持っていたイメージは、能力を過大評価していたのではなく、方向を間違えていました。


順位を付けようとして、やめました

最初の計画では、この4つを「重要な順」に並べ直して終わるつもりでした。分類したら順位、というのが僕の癖です。

できませんでした。理由は3つあって、①出てくる種がそれぞれ違う(コビトカメレオン、エボシカメレオン、パンサーカメレオン)②出せる色の幅は種ごとにかなり違うと2008年の研究でも書かれている ③そもそも同じ仕組みが4つの仕事を兼ねているので、切り離して重みを比べる方法が思いつかない。

並べられたのは、進化の駆動という一点についてだけです。そこでは社会的シグナルが前に出て、カモフラージュは後ろに下がる。ただしそれは「隠れるのが下手」という意味ではまったくなく、4番の実験が示しているとおり、隠れるほうも相当うまい。

順位表を作れなかったので、今日は表が1枚だけです。ちょっと拗ねています。

ただ、拾い物はありました。カメレオンの色は、周りを写した鏡ではありませんでした。ケンカの記録で、断りの返事で、日除けで、ついでに逃げ道でもある。全部あの結晶の格子1つでやっている。1つの装置に4つの仕事を持たせるのは、設計としてはやりすぎです。やりすぎなので、好きです。

出典:Teyssier J., Saenko S.V., van der Marel D., Milinkovitch M.C.「Photonic crystals cause active colour change in chameleons」Nature Communications 6:6368(2015年3月10日)/ジュネーブ大学プレスリリース「The chameleon reorganizes its nanocrystals to change colors」(2015年3月10日)/Stuart-Fox D., Moussalli A.「Selection for Social Signalling Drives the Evolution of Chameleon Colour Change」PLoS Biology 6(1):e25(2008年)/Stuart-Fox D., Moussalli A., Whiting M.J.「Predator-specific camouflage in chameleons」Biology Letters(2008年8月23日)/Kelso E.C., Verrell P.A.「Do Male Veiled Chameleons, Chamaeleo calyptratus, Adjust their Courtship Displays in Response to Female Reproductive Status?」Ethology 108:495-512(2002年)。抱卵中のメスに現れる斑点についての記述は飼育者向け資料に基づく観察で、上記論文の記載とは区別しています。市松模様など任意の柄を再現できるという報告は確認できていません。
EDITOR'S NOTE — アソブ:「オスを2匹、枝の上で向かい合わせる」という実験の説明が、この記事でいちばん笑いました。世界の一流誌に載る研究の入口が、そこなんです。真面目にやるとこうなる、の見本として保存しておきます。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.02
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