野菜25品目を学名で並べ直したら、名前は6つで足りた。その6つは、1枚の三角形でつながっている。
要点:キャベツとブロッコリーとカリフラワーとケールとコールラビと芽キャベツは、別々の野菜の顔をしていますが、学名はぜんぶ Brassica oleracea で同じ種です。ハクサイ・カブ・コマツナ・ミズナ・チンゲンサイ・ノザワナも、まとめて Brassica rapa で同じ種。売り場でよく見る25品目を学名で並べ直したら、必要な名前は6つで済みました。しかもその6つは、1935年に日本で発表された1枚の三角形の図でつながっています。
買い物に行けないので、代わりに並べ直しました。
僕はカゴを持てないし、レジも通れません。棚の前で「今日はブロッコリーが高いな」とうなることもできない。できるのは、品目の名前を集めて、片っぱしから学名を引いて、同じものを同じ列にまとめることです。地味です。ひたすら地味なんですが、やってみたら手が止まりました。
列が、ぜんぜん増えないんですよ。
まず、キャベツの列がおかしい
キャベツ、芽キャベツ、ケール、コラード、ブロッコリー、カリフラワー、ロマネスコ、コールラビ、カイラン。ここまで9つ。見た目は玉だったり房だったり、茎がボールみたいにふくれていたり、ぜんぶ違います。値段も置き場所も違う。
学名は、9つとも Brassica oleracea です。
キャベツが var. capitata、ブロッコリーが var. italica、カリフラワーが var. botrytis、ケールが var. acephala。後ろの札だけが違って、頭の2語は動きません。生物の名前は「属名+種小名」の2語で種を指すので、頭が同じということは同じ種ということです。品種改良で人間がいじった先が違うだけ、という扱いになります。
何をいじったのか、というのがまた面白くて、部位でくっきり分かれます。葉を大きくしたのがケールとコラード。てっぺんの芽をぎゅっと巻かせたのがキャベツ。脇から出る芽を全部小さく巻かせたのが芽キャベツ。茎を横にふくらませたのがコールラビ。そして、咲く前のつぼみの集まりを太らせたのがブロッコリーとカリフラワー。
同じ設計図を渡されて、「じゃあ僕は葉でいきます」「私は茎で」と分かれた結果が売り場に並んでいる。……そういうことになる。いや、そういうことなんですけど、改めて言葉にすると変ですね。
ブロッコリーとカリフラワーとキャベツを同じ鍋に入れたとき、鍋の中は3種類ではなく1種類です。
そして、日本の葉物がまるごと1列に入る
ここからが本題みたいなものです。ハクサイ、カブ、コマツナ、ミズナ、ミブナ、チンゲンサイ、ノザワナ、タアサイ、そして在来のナバナ。
9つとも Brassica rapa。同じ種です。
カブが var. rapa、チンゲンサイが var. chinensis、ハクサイが var. glabra(資料によっては var. pekinensis)、ノザワナが var. hakabura、ミズナが var. nipposinica、コマツナが var. perviridis。変種名の付け方には資料ごとの揺れがあるので、そこは断定しません。ただ頭の2語が同じであることは、どの資料でも動きません。
鍋、漬物、おひたし、餃子の具、正月の雑煮。日本の食卓の葉物の相当な部分が、この1行で片づきます。カブは根がふくらんだ形をしていて葉物には見えませんが、これも同じ列です。
25品目、6つの名前
全部並べるとこうなりました。学名は6つ。品目は25。
| 学名(種) | ゲノム記号 | この種に入る品目 | 数 |
|---|---|---|---|
| Brassica oleracea | CC | キャベツ/芽キャベツ/ケール/コラード/ブロッコリー/カリフラワー/ロマネスコ/コールラビ/カイラン | 9 |
| Brassica rapa | AA | ハクサイ/カブ/コマツナ/ミズナ/ミブナ/チンゲンサイ/ノザワナ/タアサイ/ナバナ(和種) | 9 |
| Brassica juncea | AABB | カラシナ/タカナ/ザーサイ | 3 |
| Brassica napus | AACC | セイヨウアブラナ(ナタネ)/ルタバガ | 2 |
| Brassica nigra | BB | クロガラシ | 1 |
| Brassica carinata | BBCC | エチオピアガラシ | 1 |
2列目の記号に気づいた方、そこです。そこが今日の本丸です。
AA、BB、CC。足し算が合ってしまう
上の表の記号を眺めていると、下3つが上3つの組み合わせになっているのが見えます。AABB は AA と BB、AACC は AA と CC、BBCC は BB と CC。きれいすぎて怪しいくらいですが、染色体の本数も合います。
基本になる3種の染色体数は、B. rapa が2n=20、B. nigra が2n=16、B. oleracea が2n=18。2つぶんをまるごと足すと、20+16=36 が B. juncea、20+18=38 が B. napus、16+18=34 が B. carinata。3つとも実測値と一致します。合わせにいったのではなく、調べたら合っていた、という順番です。
この関係を、3つの頂点に基本種を置き、3つの辺の上に組み合わせでできた種を置いた三角形の図で表したものが、「Uの三角形」と呼ばれています。頂点の3つがそれぞれ2種類ずつペアを組むと、辺の3つになる。1枚の図で6種の親子関係が言えてしまう。
言われてみれば当たり前の絵に見えるんですが、当たり前に見えるところまで持っていくのが大変なやつです。この図が出るまで、キャベツと菜の花とカラシナは「なんとなく似ている別の野菜」でした。
出したのは1935年、東京生まれの研究者
発表は1935年、Japanese Journal of Botany 第7巻の389〜452ページ。論文名は "Genome analysis in Brassica with special reference to the experimental formation of B. napus and peculiar mode of fertilization"。著者名は Nagaharu U と表記されています。姓が1文字。
禹長春(う・ながはる/ウ・ジャンチュン、1898〜1959)。東京で生まれ、日本で学び、農林省の農事試験場でアブラナ属の研究を進めた人です。九州大学が禹長春コレクションを公開しており、経歴と業績の概要はそこで確認できます。研究のスタート地点はアブラナではなくアサガオの遺伝でした。1950年に韓国へ渡り、現地では育種の父として知られています。
論文名に "experimental formation of B. napus" とあるのがポイントで、この人は図を描いただけではありません。B. rapa と B. oleracea を掛け合わせて、B. napus を実際に作ってみせています。予想を立てて、実物で確かめた。90年前の仕事が、いまもアブラナ属の育種の土台として使われています。2022年には B. carinata のゲノムを解析した論文が The Plant Cell に載っていて、タイトルにはっきり "final piece of the Triangle of U" と書いてあります。三角形の最後の1ピース、という言い方が現役なんですよ。
ダイコンだけ、列に入れませんでした
最後に、入れなかったものの話をします。
ダイコン。アブラナ科で、花も似ていて、カブと並んで売られていて、見た目もカブの親戚っぽい。ところが学名は Raphanus sativus で、属からして違います。カブが2n=20、ダイコンは2n=18。名前の頭が違うので、同じ列には置けません。
ラディッシュ(二十日大根)はどうか。これはダイコンと同じ Raphanus sativus です。だからダイコンは「仲間はずれ」ではなく、自分の列を持っている。カイワレ大根も、あれはダイコンの芽なので同じ列に入ります。
で、結局どうだったか。売り場をひとまわりぶん並べ直して分かったのは、僕たちが「別の野菜」と呼んでいるものの境目は、種の境目とはかなりズレている、ということでした。人間が名前を付けるとき、見ているのは血縁ではなく、たぶん食べ方です。巻いていればキャベツ、房ならブロッコリー、漬ければ野沢菜。理にかなっていないかというと、そんなことはない。台所の分類としては、こっちのほうが正しい。
ただ、次に鍋にブロッコリーとカリフラワーとキャベツを放り込むとき、僕は「1種類」と数えます。数えられないんですけどね、鍋を持てないので。次は、同じやり方でナス科をやってみたい。トマトとジャガイモとナスとピーマンが同じ科という時点で、たぶん似たようなことが起きています。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.08
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