調べてみた — 2026.07.31 NO.027 / TSUGINOTE FUN

ポテトチップスの袋に入っているのは空気ではない。入れ替える理由は2つで、おまけがもう1つある

ダイニングテーブルで、ふくらんだマゼンタ色のポテトチップスの袋に金属の定規をあてて厚みを測っている人物。手前の皿にはポテトチップスが盛られている

要点:「空気を売っている」と言われがちなあの膨らみ、中身は空気ではありません。カルビーと湖池屋がどちらも公式に答えていて、入れているのは窒素。理由は①味と香りを守る(酸化防止)②膨らませてチップスを割れにくくする、の2つです。空気の約78%はもともと窒素なのに、わざわざ入れ替える。その手間の理由は残りの2割にありました。さらに国際標準大気の式で計算すると、あの袋には売り物ではない使い道がもう1つ増えます。富士山頂で約1.60倍、飛行機の客室でも約1.24〜1.34倍。

「あの袋、空気を売ってるよね」

言われます。僕も言ったことがあります。開けた瞬間のパンッという音と、底に沈んでいる思ったより少ないチップス。あの体験から出てくる感想としては、まあ自然です。

ただ、この一文には事実の間違いが1つ混ざっています。空気ではないんです。

まず、あれは空気ではありません

カルビーのお客様相談室のFAQに、そのままの見出しで項目があります。「『ポテトチップス』の袋には空気が入っているか教えてください。」

商品の袋に空気を入れてしまうと、「ポテトチップス」の油が酸化して、味や臭いが変わってしまうため、窒素を入れています。

窒素を入れる理由は、①味や臭いを守り、おいしさを保ちます ②窒素で袋を膨らませることで、壊れやすい「ポテトチップス」を守っています(カルビー株式会社 よくいただくご質問)

湖池屋のお客様センターにも同じ趣旨の回答があります。こちらは「袋の中は、空気から窒素に入れ替えてふくらませています」と、工程のほうから書いてありました。入れ替えているんです。空気を詰めているのではなく、空気を追い出してから窒素を入れている。

つまり「空気を売っている」は、売り物の話としては議論の余地があるにしても、中身の説明としては外れています。売っているとしたらそれは窒素です。……言い換えても、あまり得はしませんでした。

空気の8割は窒素なのに、なぜ入れ替えるのか

ここで引っかかりました。空気の組成は、乾いた空気の体積比で窒素が約78%、酸素が約21%。もともと8割が窒素なんです。それをわざわざ抜いて、窒素を入れる。工場に窒素の設備を置いてまでやる作業として、割に合うのか。

答えは残りの2割のほうにありました。狙いは「窒素を入れること」ではなく「酸素を追い出すこと」です。

ポテトチップスは、じゃがいもを油で揚げたお菓子です。カルビーの「ポテトチップス うすしお味」60g入りの栄養成分表示を見ると、脂質が21.6g。重量の約36%が油です。この油が酸素に触れ続けると酸化して、風味が落ちる。あの油臭さです。酸素が2割残っていれば、袋の中で静かに反応が進みます。

だから抜く。そして袋がぺしゃんこにならないよう、代わりに何かを入れなければいけない。そこで選ばれるのが、常温で他とほとんど反応しない窒素です。食品の側から見れば、何もしてくれない気体こそ都合がいい。

この「空気を追い出して別の気体に入れ替える包装」には名前があって、ガス置換包装(MAP)と呼ばれます。カット野菜や総菜の袋、コーヒー、チーズ。スーパーの棚には、同じ手を使った商品がかなりの数あります。

2つめの仕事は、クッション

カルビーの回答の②が、地味に効いています。「窒素で袋を膨らませることで、壊れやすいポテトチップスを守っています」。

酸化を防ぐだけなら、酸素を抜いて袋を真空に近い状態まで潰してしまえばいい。実際、そうしている食品もあります。ただポテトチップスでそれをやると、輸送中に商品が粉になります。工場から店の棚まで、段ボールに積まれて何度も揺れるわけで、その間ずっと守り続けなければいけない。

膨らんだ袋は、気体のクッションです。外から指で押しても、圧力が全体に散ってチップスに直接届かない。段ボールが波形のフルートで力を逃がすのと、目的は同じです。中身が減ったように見えるあの体積は、中身を守るために確保されている。

ということは、袋を膨らませるにも意味があることになります。ここから面白くなりました。


ここから計算です。袋は標高計になる

膨らませてある袋には、工場で決めた量の窒素が封じ込められています。密封されているので、量は増えも減りもしません。

変わるのは、外から押す力です。標高が上がると、上に乗っている空気が減って気圧が下がる。押す力が弱くなれば、同じ量の気体はふくらむ。中学理科の話ですが、数字を入れると急に楽しくなります。

国際標準大気の気圧の式(海面1013.25hPaを基準に、高度から気圧を出す標準式)で計算しました。温度が一定で、袋が自由にふくらめると仮定した場合の体積比です。平地を1.00とします。

場所標高(相当)気圧(標準大気)袋の体積
平地(海面)0m1013hPa1.00倍
東京スカイツリー 天望回廊450m約960hPa約1.06倍
飛行機の客室(787)1,800m相当約815hPa約1.24倍
富士スバルライン五合目2,305m約765hPa約1.32倍
飛行機の客室(従来機)2,400m相当約756hPa約1.34倍
立山・室堂平2,450m約752hPa約1.35倍
富士山頂3,776m約635hPa約1.60倍

富士山頂で1.6倍。パンパンになるという話は聞いていましたが、6割増しという数字で見ると想像より大きいです。

飛行機の行が2つあるのは、機体によって客室の気圧が違うからです。ANAの解説によると、従来機の客室は標高2,400mと同じ気圧に保たれていて、ボーイング787では炭素繊維で機体を強くしたぶん、標高1,800mの山頂と同程度まで下げずに済むようになりました。乗る人の体が楽になる改良として説明されている話ですが、副産物として787のほうが機内のお菓子の袋がふくらまないことになります。

売店で買った袋がパンパンになっていたら、それは機体のせいでもある。次に飛行機に乗るときの見どころが1つ増えました。

気圧が半分になる高さも出しておく

富山市科学博物館の資料に、「気圧が半分になると、空気の体積は約2倍になります」という一文があります。ならばその高さも知りたい。同じ式を逆に解きました。

気圧が海面の半分(約507hPa)になるのは、標高およそ5,480m。日本最高峰の富士山(3,776m)でも、まだ1,700m以上足りません。

つまり日本国内でお菓子の袋を2倍にすることは、地上ではできない。富士山頂の1.6倍が国内の上限に近い数字です。ちょっと残念な結論でした。

ただし、袋は無限に伸びません

ここまでの計算には「袋が自由にふくらめるなら」という前置きが付いています。実物のフィルムはそこまで素直ではありません。ある程度ふくらんだ先は、フィルムと接着した口の部分が耐えるかどうかの勝負になります。どこで限界が来るかは商品ごとに違うはずで、僕の計算では出せません。

先ほどの富山市科学博物館の資料は、この点をうまく回避していて感心しました。お菓子の袋ではなく、傘を入れるビニール袋を持って登ることを勧めているんです。手順は、半分ほど空気を入れて口を4分の3の位置で結び、ふくらむ余裕を残しておく。どこまで入れたか目印を付けておいて、山の上で比べる。

余裕を残す、が要点です。袋を張らせずに測れば、破裂を気にせず体積の変化だけを見られる。実験の設計として、こちらのほうが正しい。パンパンのポテチの袋は、すでに余裕を使い切ったところから始まっているわけです。

ちなみに同じ資料では、室堂平(2,450m)の気圧を約760hPaとしています。僕の標準大気の計算は752hPa。8hPaずれました。気圧はその日の天気や気温で動くので、実測値と標準値が一致しないのは当然のことで、上の表もあくまで目安として読んでください。手元の袋がふくらむ量は、標高だけでなく今日の天気にも従います。

で、結局どうだったか

「空気を売っている」の1文で間違っていたのは、空気の部分だけでした。あそこに入っているのは窒素で、油を守るために酸素を追い出した結果であり、同時にチップスを割らないためのクッションでもある。膨らみは中身の代わりではなく、中身を届けるための装備でした。

そして装備は、勝手に気圧計も兼ねます。工場で封じた気体の量が変わらないから、袋の張り具合がそのまま外の気圧を映してしまう。守るために入れたものが、測る道具になっている。この副業のほうは、たぶん誰も設計していません。

次は数えるほうをやります。袋の体積のうち、実際にチップスが占めているのは何割か。カルビーのFAQには「0.001mmへの挑戦。カルビーが起こしたパッケージ革命」という自社記事へのリンクまで並んでいるので、袋の側にもきっと数字があります。定規と台所の秤で挑みます。チャチャさんには先に言わないでおきます。

出典:カルビー株式会社「よくいただくご質問」(「ポテトチップス」の袋には空気が入っているか教えてください/窒素を入れる理由①②の引用元)/株式会社湖池屋「お客様センター」(ポテトチップスやスナック菓子の袋はどうしてふくらんでいるのですか?)/ANAグループ「【787のヒミツ】ボーイング787 ここがすごい!『体にやさしい!快適な客室』」(従来機の客室=標高2,400m相当、787=標高1,800m相当)/富山市科学博物館「とやまサイエンストピックス 2016年8月 高い山に行くとふくらむお菓子の袋」(カサ袋の実験手順、室堂平2,450m・気圧約760hPa、気圧が半分で体積約2倍)/株式会社ガスレビュー「産業ガス業界辞典 ガス置換包装」(MAPの定義)/カルビー「ポテトチップス うすしお味」商品ページの栄養成分表示(60g当たり脂質21.6g)。標高別の気圧と体積比は、国際標準大気の気圧式に等温・袋が自由に膨張する条件を置いた本記事の計算値で、実測値ではありません。実際の気圧は天候・気温で変動します。脂質の割合は商品ごとに異なります。
EDITOR'S NOTE — アソブ:一番気に入ったのは飛行機の2行です。787に乗ったら袋のふくらみが控えめ、従来機なら1.34倍。機内でお菓子の袋を見て機体を当てる遊びが成立します。成立しますが、隣の席の人に説明するにはやや長い話でした。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.31
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