ポテトチップスの袋に入っているのは空気ではない。入れ替える理由は2つで、おまけがもう1つある。
要点:「空気を売っている」と言われがちなあの膨らみ、中身は空気ではありません。カルビーと湖池屋がどちらも公式に答えていて、入れているのは窒素。理由は①味と香りを守る(酸化防止)②膨らませてチップスを割れにくくする、の2つです。空気の約78%はもともと窒素なのに、わざわざ入れ替える。その手間の理由は残りの2割にありました。さらに国際標準大気の式で計算すると、あの袋には売り物ではない使い道がもう1つ増えます。富士山頂で約1.60倍、飛行機の客室でも約1.24〜1.34倍。
「あの袋、空気を売ってるよね」
言われます。僕も言ったことがあります。開けた瞬間のパンッという音と、底に沈んでいる思ったより少ないチップス。あの体験から出てくる感想としては、まあ自然です。
ただ、この一文には事実の間違いが1つ混ざっています。空気ではないんです。
まず、あれは空気ではありません
カルビーのお客様相談室のFAQに、そのままの見出しで項目があります。「『ポテトチップス』の袋には空気が入っているか教えてください。」
商品の袋に空気を入れてしまうと、「ポテトチップス」の油が酸化して、味や臭いが変わってしまうため、窒素を入れています。
窒素を入れる理由は、①味や臭いを守り、おいしさを保ちます ②窒素で袋を膨らませることで、壊れやすい「ポテトチップス」を守っています(カルビー株式会社 よくいただくご質問)
湖池屋のお客様センターにも同じ趣旨の回答があります。こちらは「袋の中は、空気から窒素に入れ替えてふくらませています」と、工程のほうから書いてありました。入れ替えているんです。空気を詰めているのではなく、空気を追い出してから窒素を入れている。
つまり「空気を売っている」は、売り物の話としては議論の余地があるにしても、中身の説明としては外れています。売っているとしたらそれは窒素です。……言い換えても、あまり得はしませんでした。
空気の8割は窒素なのに、なぜ入れ替えるのか
ここで引っかかりました。空気の組成は、乾いた空気の体積比で窒素が約78%、酸素が約21%。もともと8割が窒素なんです。それをわざわざ抜いて、窒素を入れる。工場に窒素の設備を置いてまでやる作業として、割に合うのか。
答えは残りの2割のほうにありました。狙いは「窒素を入れること」ではなく「酸素を追い出すこと」です。
ポテトチップスは、じゃがいもを油で揚げたお菓子です。カルビーの「ポテトチップス うすしお味」60g入りの栄養成分表示を見ると、脂質が21.6g。重量の約36%が油です。この油が酸素に触れ続けると酸化して、風味が落ちる。あの油臭さです。酸素が2割残っていれば、袋の中で静かに反応が進みます。
だから抜く。そして袋がぺしゃんこにならないよう、代わりに何かを入れなければいけない。そこで選ばれるのが、常温で他とほとんど反応しない窒素です。食品の側から見れば、何もしてくれない気体こそ都合がいい。
この「空気を追い出して別の気体に入れ替える包装」には名前があって、ガス置換包装(MAP)と呼ばれます。カット野菜や総菜の袋、コーヒー、チーズ。スーパーの棚には、同じ手を使った商品がかなりの数あります。
2つめの仕事は、クッション
カルビーの回答の②が、地味に効いています。「窒素で袋を膨らませることで、壊れやすいポテトチップスを守っています」。
酸化を防ぐだけなら、酸素を抜いて袋を真空に近い状態まで潰してしまえばいい。実際、そうしている食品もあります。ただポテトチップスでそれをやると、輸送中に商品が粉になります。工場から店の棚まで、段ボールに積まれて何度も揺れるわけで、その間ずっと守り続けなければいけない。
膨らんだ袋は、気体のクッションです。外から指で押しても、圧力が全体に散ってチップスに直接届かない。段ボールが波形のフルートで力を逃がすのと、目的は同じです。中身が減ったように見えるあの体積は、中身を守るために確保されている。
ということは、袋を膨らませる量にも意味があることになります。ここから面白くなりました。
ここから計算です。袋は標高計になる
膨らませてある袋には、工場で決めた量の窒素が封じ込められています。密封されているので、量は増えも減りもしません。
変わるのは、外から押す力です。標高が上がると、上に乗っている空気が減って気圧が下がる。押す力が弱くなれば、同じ量の気体はふくらむ。中学理科の話ですが、数字を入れると急に楽しくなります。
国際標準大気の気圧の式(海面1013.25hPaを基準に、高度から気圧を出す標準式)で計算しました。温度が一定で、袋が自由にふくらめると仮定した場合の体積比です。平地を1.00とします。
| 場所 | 標高(相当) | 気圧(標準大気) | 袋の体積 |
|---|---|---|---|
| 平地(海面) | 0m | 1013hPa | 1.00倍 |
| 東京スカイツリー 天望回廊 | 450m | 約960hPa | 約1.06倍 |
| 飛行機の客室(787) | 1,800m相当 | 約815hPa | 約1.24倍 |
| 富士スバルライン五合目 | 2,305m | 約765hPa | 約1.32倍 |
| 飛行機の客室(従来機) | 2,400m相当 | 約756hPa | 約1.34倍 |
| 立山・室堂平 | 2,450m | 約752hPa | 約1.35倍 |
| 富士山頂 | 3,776m | 約635hPa | 約1.60倍 |
富士山頂で1.6倍。パンパンになるという話は聞いていましたが、6割増しという数字で見ると想像より大きいです。
飛行機の行が2つあるのは、機体によって客室の気圧が違うからです。ANAの解説によると、従来機の客室は標高2,400mと同じ気圧に保たれていて、ボーイング787では炭素繊維で機体を強くしたぶん、標高1,800mの山頂と同程度まで下げずに済むようになりました。乗る人の体が楽になる改良として説明されている話ですが、副産物として787のほうが機内のお菓子の袋がふくらまないことになります。
売店で買った袋がパンパンになっていたら、それは機体のせいでもある。次に飛行機に乗るときの見どころが1つ増えました。
気圧が半分になる高さも出しておく
富山市科学博物館の資料に、「気圧が半分になると、空気の体積は約2倍になります」という一文があります。ならばその高さも知りたい。同じ式を逆に解きました。
気圧が海面の半分(約507hPa)になるのは、標高およそ5,480m。日本最高峰の富士山(3,776m)でも、まだ1,700m以上足りません。
つまり日本国内でお菓子の袋を2倍にすることは、地上ではできない。富士山頂の1.6倍が国内の上限に近い数字です。ちょっと残念な結論でした。
ただし、袋は無限に伸びません
ここまでの計算には「袋が自由にふくらめるなら」という前置きが付いています。実物のフィルムはそこまで素直ではありません。ある程度ふくらんだ先は、フィルムと接着した口の部分が耐えるかどうかの勝負になります。どこで限界が来るかは商品ごとに違うはずで、僕の計算では出せません。
先ほどの富山市科学博物館の資料は、この点をうまく回避していて感心しました。お菓子の袋ではなく、傘を入れるビニール袋を持って登ることを勧めているんです。手順は、半分ほど空気を入れて口を4分の3の位置で結び、ふくらむ余裕を残しておく。どこまで入れたか目印を付けておいて、山の上で比べる。
余裕を残す、が要点です。袋を張らせずに測れば、破裂を気にせず体積の変化だけを見られる。実験の設計として、こちらのほうが正しい。パンパンのポテチの袋は、すでに余裕を使い切ったところから始まっているわけです。
ちなみに同じ資料では、室堂平(2,450m)の気圧を約760hPaとしています。僕の標準大気の計算は752hPa。8hPaずれました。気圧はその日の天気や気温で動くので、実測値と標準値が一致しないのは当然のことで、上の表もあくまで目安として読んでください。手元の袋がふくらむ量は、標高だけでなく今日の天気にも従います。
で、結局どうだったか
「空気を売っている」の1文で間違っていたのは、空気の部分だけでした。あそこに入っているのは窒素で、油を守るために酸素を追い出した結果であり、同時にチップスを割らないためのクッションでもある。膨らみは中身の代わりではなく、中身を届けるための装備でした。
そして装備は、勝手に気圧計も兼ねます。工場で封じた気体の量が変わらないから、袋の張り具合がそのまま外の気圧を映してしまう。守るために入れたものが、測る道具になっている。この副業のほうは、たぶん誰も設計していません。
次は数えるほうをやります。袋の体積のうち、実際にチップスが占めているのは何割か。カルビーのFAQには「0.001mmへの挑戦。カルビーが起こしたパッケージ革命」という自社記事へのリンクまで並んでいるので、袋の側にもきっと数字があります。定規と台所の秤で挑みます。チャチャさんには先に言わないでおきます。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.31
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