調べてみた — 2026.07.23 NO.016 / TSUGINOTE FUN

「カラスは賢い」の中身を、分けてみた

透明なパズル箱を操作してクルミを取り出そうとするカラス

要点:「カラスは賢い」とひとくくりにされがちですが、中身は案外具体的です。実験で確かめられているのは、道具を使って別の道具を取る、水にものを落として餌を浮かせる、人の顔を数年おぼえる、といった芸当。ただし人間の5〜7歳児くらいの水準で、少しひねった物理には引っかかります。賢い、を分けて見ると、称賛も落ち着きどころが見えてきます。

「カラスは賢い」。この一言は、あまりに手軽です。ゴミ袋を器用に破るのも、クルミを車に轢かせて割るのも、ぜんぶ「賢いから」で説明が済んでしまう。便利な言葉ですが、便利すぎて、結局なにを指しているのかがぼやけています。そこで、実験でちゃんと確かめられている"賢さ"のほうを、いくつかに分けてみます。

その一。道具で、道具を取る

写真のカラスは、透明な箱を相手に難しい顔をしています。こういう多段の仕掛けを解く実験は、実際に行われてきました。ニュージーランドの研究チームが「007」と名づけたニューカレドニアガラスは、8段階のパズルに挑みました。短い棒でまず小さな石を取り出し、その石で別の仕掛けを動かし、出てきた長い棒でようやく餌に届く——道具で道具を手に入れる、いわゆる「メタ道具使用」です。007はこれを、初見にもかかわらず2分半ほどで解いたと報告されています。手順を頭の中で組み立てている、と考えないと説明がつきません。

ちなみに、こうした込み入った道具使いが得意なのは、カラスのなかでも一部です。ニューカレドニアガラスは葉や小枝を加工してフック状の道具まで作りますが、日本の街で見かけるハシブトガラスやハシボソガラスが同じ芸当を日常的にやる、という話ではありません。ひとくちに「カラス」といっても、得意分野には差があります。

その二。水位を、上げてみせる

イソップ寓話に「カラスと水差し」があります。喉が渇いたカラスが、水差しに石を落として水位を上げ、水を飲む話。これを実験室で再現したところ、ニューカレドニアガラスやミヤマガラス、カケスは、細い管に石を落として、浮いた餌を口が届く高さまで引き上げてみせました(2014年の研究)。しかも、水の入った管とそうでない管、沈むものと浮くもの、中身の詰まったものと空洞のものを、ちゃんと選び分けている。人間の子どもがこの理屈を安定して使えるのは、だいたい7歳ごろからだといわれます。

その三。人の顔を、覚えている

アメリカでの有名な実験があります。研究者がゴム製のマスクをかぶってカラスを捕獲・標識し、後日いろいろなマスクで同じ場所を歩く。すると、カラスは捕獲時のマスクにだけ鳴いて騒ぎ、集団で威嚇しました。この「危険な顔」の記憶は数年続き、しかも直接ひどい目に遭っていない仲間や次の世代にまで伝わっていく。カラスに恨まれると長い、というのは、どうやら比喩ではないようです。

「賢い」の内訳は、道具の連鎖・因果のなんとなくの理解・個体としての人間の記憶。ひとことで片づけるには、少し惜しい細かさがあります。

ただし、万能ではない

ここで持ち上げすぎないのが大事なところです。同じ水位の実験でも、管の「太さ」に注目しないと解けない課題や、U字型につながった直感に反する仕掛けでは、カラスはあっさり失敗しました。研究者の評価も「洗練されているが、不完全な因果の理解」。つまり、あの見事な芸当は、5〜7歳児と張り合う線での賢さであって、大人の物理直観とは別物です。得意なところと、つまずくところが、はっきり分かれています。

できること苦手なこと
道具道具で道具を取る多段の手順
物理ものを落として水位を上げる管の太さやU字の引っかけ
記憶危険な人の顔を数年覚える

身近な"賢さ"も、話半分で

ついでに、街なかの例にも触れておきます。クルミを車道に置いて、車に轢かせて割る——仙台などで観察された、主にハシボソガラスの行動です。「信号が赤のあいだに置いて、青で車に割らせ、また赤で回収している」といった語られ方をよく見かけます。ただ、ここは慎重に。研究者のあいだには、カラスは車を狙っているのではなく、かたいアスファルトに叩きつけて割っているのを、たまたま通った車が仕上げているだけ、という見方もあります。季節でクルミの殻のかたさが変わるのを見ているのでは、という説も出ています(いずれも諸説あり)。確かめられた芸当と、人間があとから足した"物語"は、分けておくのが公平でしょう。賢さの話は、とにかく盛りやすいのです。

こうして分けてみると、「カラスは賢い」はウソではないけれど、大ざっぱでもあります。正しくは、「特定の場面で、幼児と競うくらいには器用で、しかも人の顔だけはやたら長く覚えている鳥」。……あまりまとまりのいい肩書きではありません。ゴミ捨て場でこちらを見ているあの目が、こちらの顔を数年ぶんの解像度で記録している、とだけ思っておけば、じゅうぶん背筋は伸びます。賢いかどうかより、覚えられている、のほうが実生活には効くのかもしれません。

出典:イソップ寓話パラダイムの実験は Jelbert et al. "Using the Aesop's Fable Paradigm to Investigate Causal Understanding of Water Displacement by New Caledonian Crows"(PLOS ONE, 2014、journals.plos.org)/「007」の多段パズルは Science Friday「What Puzzle-Solving Crows Can Teach Us About Animal Intelligence」(sciencefriday.com)ほか報道/顔の記憶は John Marzluff らの研究、The Conversation「Never cross a crow – it will remember your face」(theconversation.com)/クルミ割り行動と「車に轢かせる/アスファルトに叩きつける」の議論はカラパイア「日本のカラスがクルミを車に割ってもらい…」(karapaia.com)。記憶年数や課題の細部、クルミ割りの解釈は資料により幅があり(諸説あり)、共通する範囲でまとめた。
EDITOR'S NOTE — チャチャ:「賢い」とほめるより、「見覚えられている」と気づくほうが、行儀がよくなります。少なくとも私はゴミ出しが丁寧になりました。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.23
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