語源・由来 — 2026.07.25 SAT NO.018 / TSUGINOTE FUN

「&」は、かつてアルファベットの27番目の文字だった

「&」は、かつてアルファベットの27番目の文字だった

要点:記号「&」の名前「アンパサンド」は、形とは無関係な場所で生まれた。19世紀の英語圏の子どもたちは、アルファベットのZの次に「&」をおまけの27番目として暗唱していた。単体で意味を持つ文字は「〜 per se(それ自体で)〜」と唱える作法があり、「& per se and」という早口の言い回しが崩れて"ampersand"になった。1837年までに定着したとされる(Merriam-Webster調べ)。一方、記号そのものの形は、1世紀の古ローマ筆記体でラテン語 et(=and)のEとTを重ねた合字が起源。名前と形は、まったく別の時代に別の理由で生まれ、たまたま同じ記号の上で同居している。

「&」を見て、洒落た「and」の略記号だと思っている人は多いと思います。私も特に疑ったことはありませんでした。ところが名前の由来を調べると、話は逆でした。この記号にはまず形の由来があり、まったく別に名前の由来があり、両者は最初、何の関係もなかったのです。

Zの次に、もう一文字あった

19世紀の英語圏の教室では、子どもがアルファベットを丸暗記するとき、Zで終わらせませんでした。その後ろに「&」を続けて唱えるのが、ふつうのやり方だったそうです。26字の後ろに、おまけの27番目が座っていた。数の合わない話ですが、当時はそういう扱いでした。

ここで少し面倒な問題が起きます。「I」や「A」のように、それ単体で単語として意味を持つ文字を暗唱するとき、「これは文字のIですよ、単語のIじゃないですよ」と区別しないと、聞いている側が混乱する。そこで昔から、単体で意味を持つ文字には「per se(ラテン語で"それ自体で")」を添えて唱える作法がありました。「A per se A」「I per se I」というふうに。

早口が、名前を作った

「&」も同じ扱いを受けます。それ自体が「and」という単語を表す記号なので、「& per se and」——「&は、それ自体でandである」と唱えることになっていた。子どもたちが毎朝これを高速で繰り返しているうちに、当然のように音が崩れていきます。

"X, Y, Z, and per se and" が早口で流れ、聞こえてくる音はいつしか"ampersand"になっていた。

この崩れた発音が定着し、1837年までには英語の一般的な語彙として使われていたとされます(Merriam-Webster調べ)。つまり「アンパサンド」という名前の正体は、暗唱の授業で子どもが早口を続けた結果生まれた、聞き間違いの化石のようなものです。語源というより、集団の言い間違いが定着した記録に近い。

形のほうは、もっと古い

ここまでは名前の話でした。記号そのものの形は、これとは別の場所、しかももっと古い時代に生まれています。起源は1世紀の古ローマ筆記体。ラテン語で「and」を意味するetという単語を書くとき、EとTをつなげて一筆で書く合字が使われました。これが少しずつ崩れて、いまの「&」の曲線になったとされます(Wikipedia、Britannica調べ)。書体によっては、いまでも「&」の中にEとTの名残がうっすら見える、というのはよく言われる観察です。

つまり形の由来は「ラテン語の書き癖」、名前の由来は「英語圏の教室の早口」。生まれた場所も時代も、まったく別です。

別々に生まれて、たまたま同居している

記号と名前が同じ由来を持っているはず、というのは、こちらが勝手に期待していただけの話でした。実際には、1000年以上先に生まれた記号に、あとから別の理由で名前がくっついた。しかもその名前は、正式な命名というより、教室の早口が固まっただけのものです。

いま「&」を使うとき、私たちはラテン語の書き癖と、英語の早口の両方を同時に運んでいます。本人たちに、そのつもりはまったくなかったでしょう。以上です。

出典:Merriam-Webster「The History of 'Ampersand'」(merriam-webster.com)/Wikipedia「Ampersand」(en.wikipedia.org)/Britannica「Ampersand」(britannica.com)。名前の定着時期(1837年頃)はMerriam-Websterの記述に基づく。記号の起源は諸説の中でも合字説が広く採られているが、細部の変遷は資料により表現に差があるため、断定的な数値以外は「〜とされる」と表記した。
EDITOR'S NOTE — チャチャ:早口言葉が正式名称になった記号は、たぶんこれくらいだと思います。他にあったら、誰か教えてください。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.25
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