絵文字の「emoji」は、emotionと何の関係もなかった。
要点:「emoji」は英語の emotion(感情)でも emoticon でもなく、日本語の「絵」+「文字」をローマ字にしただけ。頭が e で始まって感情っぽく見えるのは、ただの偶然です。生まれは日本の携帯電話。そのローマ字が海を渡り、いまでは 😂 が英語辞書の「今年の言葉」に選ばれるまでになりました。
emoji。英語の文章にそのまま出てくるこの単語を見て、多くの人が emotion(感情)や emoticon(顔文字)の親戚だと思っています。頭が e で始まり、感情を伝える道具で、字面も似ている。これだけ条件が揃えば、疑う理由がありません。ところが、その連想は最初から最後まで的外れです。
eは、emotionのeではない
emoji を分解すると、e+moji。この e は「絵」、moji は「文字」。つまり日本語の「絵文字」をそのままローマ字にしただけの言葉です。感情の emotion とは、綴りが少し似ている以外に接点がありません。オックスフォードの辞書も、emoji の語源を日本語の「絵(picture)」+「文字(character)」と記し、英語の emotion・emoticon との類似は偶然だと明記しています。
ついでに整理しておくと、emoji と emoticon は別物です。emoticon は ;) や :-) のように、キーボードの記号を並べて顔に見立てたもの。一方の emoji は、一つの絵として用意された画像・記号です。似た仕事をしているので混同されますが、出自も作り方も違います。
| 語 | 正体 | 由来 |
|---|---|---|
| emoji | 絵として用意された記号(😀 など) | 日本語「絵」+「文字」 |
| emoticon | 記号を並べた顔(:-) など) | 英語 emotion+icon |
emoticon のほうは確かに emotion 由来です。ここが紛らわしさの元凶で、隣にいる似た言葉の素性が、そのまま emoji にも当てはめられてしまう。もっともらしい勘違いが伝わっていくのは、言葉の世界ではよくあることです。
生まれは、日本の小さな画面
emoji が日本語なのは、生まれた場所が日本だからです。世界標準の「emoji」の直接の礎になったとされるのは、NTTドコモが1999年にはじめた携帯インターネット「iモード」向けに用意された176種類のセット。開発企画者だった栗田穣崇(くりた・しげたか)氏が監修し、専門のデザイナーではなく短期間で作られました。一つの絵は12×12ドット、たった144マスの方眼で、天気や気持ちや乗り物を表しています。限られた画面と通信量のなかで、言葉を絵で節約する工夫でした。
もっとも、「最初の絵文字」となると諸説あります。ドコモに先立ち、J-フォン(のちのソフトバンク)が1997年発売の端末に90種類ほどの絵文字を載せていた、という記録もあります。どこを起点と数えるかで「一番乗り」は変わるので、ここでは「世界に広がった emoji の直接の下敷きになったのは、ドコモの176種とされる」と控えめに言うにとどめます。(諸説あり)
ローマ字のまま、海を渡る
日本の携帯だけの機能だったものが世界語になったのは、絵文字が国際的な文字コード(Unicode)に採り入れられ、スマートフォンで誰でも打てるようになったからです。英語圏では2011年、AppleがiOSに絵文字キーボードを載せたあたりから一気に広がりました。このとき、わざわざ「picture-character」などと英訳されず、日本語の音「emoji」がそのまま輸出されたのが面白いところ。名前だけ見れば、日本語が一つ、世界の共通語にまぎれ込んだことになります。
広がりを象徴する出来事があります。オックスフォードの辞書は2015年、「今年の言葉(Word of the Year)」に 😂(Face with Tears of Joy/うれし泣きの顔)を選びました。2004年にこの選定が始まって以来、絵が選ばれたのは初めて。提携先の解析では、その年に世界でもっとも使われた絵文字だったといいます。文字を選ぶ場所に、文字でないものが座った——言葉の定義が、少しだけ押し広げられた瞬間でした。
ちなみに、ドコモの初代176種は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されています。方眼紙の上のちっぽけな絵が、美術館の収蔵品になり、辞書の「今年の言葉」になる。当人たちも想定していなかった旅路でしょう。
結局、名前は勘違いされたまま
ここまで広まっても、emoji=emotion という思い込みは消えません。むしろ、感情を運ぶ道具という実際の役割と、e で始まる字面が噛み合っているぶん、勘違いは居心地よく定着しています。語源としては間違いでも、使い勝手としては辻褄が合ってしまう。だから訂正されにくい。
正体は「絵」と「文字」を足しただけの、素っ気ない合成語です。深い意味も、感情の語源もない。ただ、その素っ気なさが世界中の画面で毎日打たれ、辞書と美術館にまで届いたのだと思うと、名前の由来を知らずに使うくらいがちょうどいいのかもしれません。次に 😂 を送るとき、その e が「絵」であることを、わざわざ言い添える必要は——たぶん、ありません。