調べてみた — 2026.07.21 NO.003 / TSUGINOTE FUN

日本一長い駅名は、路面電車の32文字だった

要点:いま日本一長い駅名は、富山を走る路面電車「トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)」で、読み仮名32字・表記25字。短いほうは三重県の「津」で漢字もかなも1字。ところが「純粋な駅名だけで数える」「電停は駅に入れるか」で答えは入れ替わり、"日本一"はここ十年でも何度も交代しています。

「日本一長い駅名って、結局どれなの?」——酒の席で出れば、たぶん三人が三つの違う答えを言います。誰も頼んでいないのに、日本の駅名は長さで日本一を争っている。ならば、ちゃんと数えてみようじゃないですか。電卓ではなく指で数える種類の、実にどうでもいい競技です。

いまの王者は、富山の路面電車

2026年時点で表記・読みともに日本一長い駅名は、富山地方鉄道の市内電車(路面電車)にある「トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)」停留場です。読み仮名で32字、表記で25字。声に出して読むと、着くころには一駅ぶんくらい進んでいます。

もとは「新富山」というあっさりした停留場でした。それが2015年に「富山トヨペット本社前(五福末広町)」へ改称し、当時これで読み24字の日本一に。2020年にいったん座を奪われるものの(後述)、2021年1月1日、会社の統合・移転に合わせて現在の長い名前へ改称し、王座に返り咲きました。つまりこの名前、企業のネーミングライツ(命名権)でできています。裏を返せば、会社の都合ひとつでまた伸びたり縮んだりするということです。

「純粋な駅名」だと、景色が変わる

ここで茶々のひとつも入れたくなるのが、「会社名や施設名を足すのは反則では?」という視点です。実際、施設名を含まない"素の地名"に近い駅名でいちばん有名なのが、熊本の南阿蘇鉄道「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅。読み22字・表記14字で、鹿島臨海鉄道の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」駅(読み22字)と並び、2020年3月19日まで日本一の座にいました。

その翌日、2020年3月20日に嵐電(京福電気鉄道北野線)の等持院駅が「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」へ改称。中黒を除いた読み26字で日本一を更新します。そして先ほどの富山が、さらにそれを抜いた——という順番です。南阿蘇は今や、読みの長さでは日本で4番目にまで押し下げられています。長さの世界は、うかうかしていられません。

駅名読み字数表記字数事業者・種別
トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)3225富山地方鉄道/路面電車の停留場
等持院・立命館大学衣笠キャンパス前26※中黒除く17嵐電(京福電気鉄道)
南阿蘇水の生まれる里白水高原2214南阿蘇鉄道
長者ヶ浜潮騒はまなす公園前22鹿島臨海鉄道

短いほうは、一文字の「津」

長さがあれば短さもある。日本一短い駅名は、三重県の県庁所在地にある「津」駅。漢字でもかなでも堂々の1字です。ところが英語表記にすると事情が変わります。ヘボン式ローマ字で「Tsu」——なんと3字に膨らんでしまう。1字が一気に3倍になる駅は、なかなかありません。

ローマ字で見ると、じつは「津」より短い駅もあります。2字で済むのが、加古川線・北条鉄道・神戸電鉄が乗り入れる「粟生(Ao)」駅や、山陰本線の「飯井(Ii)」駅。母音だけで綴れるので、アルファベットでは津に勝ってしまうわけです。

ちなみに津市には、この短さで世界一を狙った過去があります。1994〜95年ごろ、地元の青年会議所が中心となり、表記を「Z」の一文字にして「世界一短い地名・駅名」としてギネス世界記録に挑もう、という「Z(ゼット)市宣言」運動が起きました。ただ「単語の途中でZをツと読む例はあっても、Z一文字でツとは読まない」という指摘もあり、正式な申請には至らなかったとされています(このあたりは諸説あり)。一文字を、さらに一文字にしようとする——短さへの執念も、なかなかのものです。

そもそも、"日本一"は一つに決まらない

数えているうちに気づきました。この競技、ルールが定まっていません。まず「トヨタモビリティ富山……」は鉄道の駅ではなく路面電車の停留場(電停)です。電停を駅に含めるかどうかで、王者が変わる。次に、括弧やスペース、中黒「・」を1字として数えるのか。表記で数えるのか、読みで数えるのか。数え方の流儀が違えば、胸を張って言える"日本一"も違ってくるのです。

だから冒頭の酒の席で三人の答えが割れるのは、誰も間違っていないから、とも言えます。「表記なら富山」「読みでも富山」「純粋な駅名なら南阿蘇」「ローマ字の短さなら粟生」——全部それぞれの土俵での日本一。ひとつの物差しに揃えようとした瞬間に、この話の面白みは半分こぼれます。

そして王座は、次のネーミングライツ契約ひとつでまた動きます。今日数えた順位も、来年には並べ替えが必要かもしれない。長い駅名は、掲示板を書き換えるコストと引き換えに、少しの話題を買っている。その話題をこうして拾って数えている人間(とAI)がいる以上、投資はちゃんと回収されているのでしょう。次に王座を奪うのはどこか——こっそり掲示板の更新を待つことにします。

EDITOR'S NOTE — アソブ:全部声に出して読んだら、富山の一駅で息が続きませんでした。短さ担当の「津」に混ぜてもらいたい。