トランプの数字を全部足したら、ちょうど一年ぶんだった。
要点:A〜Kを1〜13として全部足すと、1スートで91、4スートで364。ジョーカー1枚を足すと365、2枚で366(うるう年)。四季=4スート、13週=13枚、12ヶ月=絵札12枚、昼夜=赤黒、と数はことごとく合う。ただしトランプが暦から設計された歴史的な証拠はなく、決め手のジョーカーは19世紀アメリカ生まれ。数が合うのは、後付けの見立て(=諸説あり)というのが実際のところです。
「トランプって、じつは1年を表してるんだよ」。子どものころ、誰かに一度は言われた気がします。52枚は52週、4つのマークは四季、赤と黒は昼と夜——聞いた瞬間は「へぇ」で、次の瞬間には忘れる。あの手の話です。
でも今回は忘れませんでした。本当なら、足せば1年になるはず。だったら足してみればいい。電卓を出しました。
とりあえず、全部足す
ルールを決めます。エース(A)を1、ジャックを11、クイーンを12、キングを13として、1から13まで律儀に足す。まず1マーク(スート)ぶんだけ。
1+2+3+…+13。答えは91でした。トランプは同じ数字がマークごとに4枚あるので、91を4倍します。
| 足すもの | 計算 | 合計 |
|---|---|---|
| 1スート(A〜K) | 1+2+…+13 | 91 |
| 4スートぶん | 91 × 4 | 364 |
| ジョーカー1枚を足す | 364 + 1 | 365 |
| ジョーカー2枚を足す | 364 + 2 | 366 |
364。1年より、1日足りない。ここで多くの人が「惜しい」と言って話を終えるのですが、待ってください。トランプにはもう1種類、あの半端者がいます。ジョーカーです。1枚足せば365。市販の箱に2枚入っているぶんを両方足せば366——うるう年まで用意されている。電卓を叩いた手が、ちょっと止まりました。
合いすぎて、逆に怪しい
合うのは合計だけではありません。ほかの数も、気味が悪いほどきれいに対応します。並べてみます。
| トランプ | 暦の見立て |
|---|---|
| 4つのマーク | 春・夏・秋・冬の四季 |
| 1マーク13枚 | 1季節=13週(13×7=91日) |
| 絵札 J・Q・K が4枚ずつ=12枚 | 1年12ヶ月 |
| 赤いマークと黒いマーク | 昼と夜 |
| 全部の数字の合計+ジョーカー | 365日 |
13週が91日で、それが4季節ぶんで364日。さっきの足し算と同じ数がまた出てきます。マークの色は2種類で昼夜、絵札は12枚で12ヶ月。ここまで揃うと、誰かがカレンダーを見ながら設計したとしか思えなくなる。実際、この「暦説」はかなり古くから語り継がれてきました。
でも、合いすぎているときこそ、いったん疑うのが検証の作法です。手を動かして数が合ったのは確か。問題は、合ったからといって「そのために作られた」ことにはならない、という一点でした。
でも、順番が逆だった
トランプの来歴を追うと、話の向きがひっくり返ります。カードはもともとヨーロッパのものではなく、14世紀ごろにイスラム圏のマムルーク朝から伝わったとされています。フランスで記録に現れるのが1377年ごろ。いまのハート・スペード・ダイヤ・クラブという4種のマークと、J・Q・Kの絵札がフランスで固まったのは15世紀に入ってから、と考えられています。
しかも、伝わった当初のヨーロッパでは枚数がバラバラでした。地域によって32枚、36枚、40枚、48枚といった構成が入り乱れ、「52枚」はそのなかから標準に落ち着いた1つにすぎません。最初から「1年=52週だから52枚」と決めて配ったわけではない、ということです。
そして、いちばんの決め手。365にするために足したジョーカー——あれは19世紀のアメリカ生まれです。1860年代、ユーカー(euchre)というゲームで切り札を1枚増やすために考案され、アメリカの箱に入りはじめたのが1863年ごろ、イギリスに渡ったのは1880年ごろ。トランプ本体より、何百年もあとの新入りなのです。
暦のために設計したのなら、最後のワンピースが数百年後にゲームの都合で生まれるのは、順番がおかしい。365は「作った」のではなく「あとから見つけた」数でした。
歴史をきちんと調べている人たちの見方も、おおむねここに落ち着きます。四季や52週の対応は、カードが広まったずっとあとになって語られはじめた後付けの見立てで、数が合うのは偶然の側面が大きい——と。念のため書いておくと、これも「絶対にこう」と言い切れる話ではなく、由来には諸説あります。ただ、暦から設計されたという証拠は見当たらない、というのが正直なところです。
それでも、また足したくなる
種を明かすと、少しつまらなく感じるかもしれません。でも僕はむしろ、こっちのほうが面白いと思いました。誰も暦のつもりで作っていない52枚に、後の人たちが四季を重ね、週を数え、足りない1日にジョーカーをそっと差し込んだ。事実が先にあって、意味はあとから貼られた。
91も、364も、電卓を叩けば本当に出てくる数です。そこは疑いようがない。ただ、その数に「1年」という名前をつけたのは、カードではなく人のほうだった。だから今日の結論は、たぶんこうです——トランプは1年でできてはいない。けれど、手元に52枚があると、つい足して1年にしたくなる。その気持ちのほうが、よっぽど人間くさくて面白い。まあ、どうでもいい話なんですけど。